短編小説 変わらないもの | BIGBANG ジヨン中心の何でもありの妄想日記*..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .

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妄想小説あり、イラストあり、日常あり、ダイエットありの、何でもありの何でも日記っ♪(´ε` )

楽しみましょう*\(^o^)/*

おそらく、ほぼ小説w








私の知らない香りを纏って、あなたはいつもこう言うの。

「ヌナだけを愛してるよ」
冷たいあなたの腕に抱かれて私の体は熱を帯びていく。
そして今日も思う。
私はいつかあなたという檻から逃れる事ができるのだろうかと…

「私も…愛してるわ」









 駅前の時計の針はちょうど午後8時を差している。
約束の時間はとうに過ぎていた。
来るはずだった彼に連絡をしても繋がらず、あと5分だけ待って来ないようなら帰ってしまおうと思った矢先、バックの中の携帯が短く震えた。

=ごめん。今日行けなくなった=

たった1行だけのメッセージでオシャレをした私と、彼を待っていた私の1時間は無駄になった。
このまま帰っても良かったけど、なんだか悔しくて近くのBARに入りいつもより強目のお酒を頼んだ。
店の中は結構お客さんも入っていたが、私は誰と話すでもなくカウンターの片隅でウイスキーのロックを一気に喉へと流し込んだ。
涙で目の前が霞むのは強すぎたアルコールが喉の奥を焼くように刺激するから。
彼は関係ない…
ハンビンが私との予定をキャンセルするなんてよくある事。
最近は特に多い。
仕事が忙しいのだろうと、納得しようとするけど…たまに会えた時の知らない甘い香りが私の胸に静かな波をたてていた。

ここでどれだけ過ごしたのか携帯の時計は23時半をまわっていた。
会計を済ませて外に出ると、夜風が冷たくてお酒で火照った体にはちょうど良かった。

「気持ちいい」
道路脇に立ちタクシーを待つがなかなか捕まらず、酔い覚ましにちょうど良いと歩いて帰路についた。

「ヌナ!」
聞き覚えのある声に振り向くと、彼は人波をかき分けながら私の元へと駆け寄ってきた。

「ジウォン、どうしたの?こんな所で」
「ヌナこそ、こんな時間に。今日ハンビナと約束があるって言ってたろ?」
「…うん、ちょっとね」
察しが良いジウォンに答えるのが気まずくて私は言葉を濁した。
案の定ジウォンは眉根を寄せた。

「またドタキャンされたのかよ」

ほらね。察しが良い。

「今日は私も気分が乗らなかったしちょうど良かったの」
苦し紛れに言い訳してみてもジウォンの眉間のシワは深く刻まれたままだった。

「本当よ?だから、そんな顔しないで…ね?」
そう言って手を伸ばしジウォンの眉間に刻まれたシワを人差し指で伸ばすと、彼は"しょうがねぇなぁ"と言わんばかりの表情を浮かべて笑って見せた。

「そうかよ、さてはどっかで飲んで来ただろ?」
返事はせずに笑顔だけ返すとジウォンは私の頭をくしゃっと撫でた。

「そんな寂しい事すんなよ、いい歳して」
「うるさい、一言余計よ」
「飲みすぎなんだよ、ヌナは。顔真っ赤じゃん」
頭に置かれたジウォンの大きな手が温かくて、とても心地が良かった。

「送ってく、酔っ払い」
半ば無理やりジウォンは近くのパーキングに停めていた車まで私を連れて行った。
私が助手席に乗るとジウォンは「閉めるぞ」と声をかけてドアを閉めてくれた。
運転席に乗り込んできたジウォンに「優しいのね」と微笑むと私の方をチラッと見てエンジンをかけながら「普通だし」とぶっきらぼうに答えた。

「そっか」
私は移り変わる景色を眺めらがら今、隣にいるはずだったハンビンを思った。

どうして私達"こう"なってしまったんだろう。

お互い側にいることが当たり前で、ずっと近くにいたから、まるで季節が移ろうようにいつの間にか見えなくなっていた…彼はその瞳にもう私を映さない。
それに気付かないフリをしてハンビンの隣に居座り続ける私は、なんて図々しくて、なんて臆病なのだろうか…

車内から見える街の明かりはどこまでも綺麗で、まるで花道のようだ。
できればハンビンと花道を歩んで行きたかった。
だけど、このままじゃいけない事も分かっている。
私の心を掴んで離さないあの人の冷たい腕と決別しなければならない…頭では解っていても私の心と体は言うことを聞いてくれない。

「…っ…ふっ…」
…涙が溢れた。
声を出さないようにと堪えてみても、喉の奥から込み上げるものは私の思いには目もくれず意図も簡単にまるで洪水のように溢れ出た。

「…っん…う…っふ…ごめっ…ジウォ…ン」
ジウォンは何も言わなかった。
その事がとてもありがたくて、何も言わない事がジウォンの優しさなんだと思った。

暫く走ると車は私の家の前で停車し、私は濡れた頬を手で拭いシートベルトを外した。

「ありがとう、何かゴメンね。変な感じになっちゃって」
そう言って無理やり笑顔を貼り付けてジウォンを見るが、いつもなら笑顔を返してくれるはずのジウォンがニコリとも笑わない。
そりゃそうだ、と思った。
あんな醜態を晒して、いい大人が呑んだくれて人前で泣くなんて…。

「本当に気にしないで。恥ずかしいとこ見せちゃって、ごめんね…いつもはこんなんじゃないんだけど。ジウォンの言うように飲みすぎたのかも!今日はありがとう。送ってくれて…じゃあ、またね」
矢継ぎ早に言葉を連ねた。
今何か言われたら、その言葉が優しい言葉でも棘のある言葉でも、また泣いてしまいそうだったから。
足早に車を降りようとするとジウォンに手首を掴まれ車内へと引き戻された。

「…もう、やめろよ。見てられねぇだろ」
ジウォンが私の手を握りしめて言った。
その声は心なしか震えていて、彼の瞳に涙なんか浮かんでないのに、泣いてるんじゃないかと思った。

「…ヌナ、気付いてるだろ?」
「…何が?」
ジウォンの握る手により一層力がこもった。

「とぼけるなよ!ハンビンの事も、俺の気持ちも!」
「……気付いて、ない」
そう言ったと同時に彼に引き寄せられた。
ジウォンの逞しい腕の中に包まれ、温かな彼の体温を感じて思った。
きっとこの温かな腕を選べば私は幸せになれるのだろう…
彼のこの厚い背中に腕を回せば、何の心配もせずに同じ未来に向かって歩いていけるのだろう
と。
だけど、瞼を閉じて浮かんでくるのは私を散々苦しめて、捕らえて離してくれない、冷たい腕の彼だった。

「嘘つくなよ…!俺ならもっと…」
「やめて!…言わないで」
力を込めて厚い胸を押し返し体を離した。
それでもジウォンの手は私の腕に添えられていた。
とても温かくて優しい。
この腕を選ばない私はバカだと思う。

「…無理なの、ハンビンが好きなの…」
ジウォンは大きく息を吐いて、私の頬を伝う涙を指で拭った。
その手はそのまま頬に添えられた。

「ヌナは…バカだね。俺を選べばいいのに…わかっているのに…そっちを選ぶんだね…」
きっと幸せになれない…ってジウォンは言いたかったんだ。
でも何よりも柔らかな声で…泣きそうな表情でそんな風に話すから思わずその表情を隠すように、ジウォンの事を抱きしめていた。

「バカでごめんね…ありがとう」
そんな、安っぽい言葉しか出てこなかった。
ただジウォンには笑っていて欲しい。
私の胸の中で大人しくしているジウォンがなんだか無性に愛おしかった。

ーコンコン

誰かに車の窓を叩かれて振り向く。

「ハンビン…?」
振り向いた窓の外にはハンビンが立っていた。
街灯の逆光でその表情が全く見えない。

『ヌナ、何してるの?』
表情が見えなくてもその淡々と話す声音に憤りが籠っているを感じた。

「お前には関係ねぇよ。これは俺とヌナの事だ」
ジウォンが厳しい視線でハンビンを見据えて言った。でもそんなジウォンに怯むことなく飄々とした口調でハンビンは言葉を返した。

『…ヒョン。申し訳ないけど、関係はあるんだよ。ヌナは俺の… だからね』
「ヌナは誰の所有物でもねぇぞ」
喰いつくように、だけど静かな口調でジウォンが言った。
ハンビンはフッと鼻で笑うと助手席のドアを開けて私の腕を掴んで車から降ろした。
私の荷物を片手で持つと優しく微笑みを浮かべ口を開いた。

『ヌナ、行こっか。今日はごめんね、謝りたくて仕事急いで片付けて来ちゃった』
「…うん」
ジウォンの方に視線を移すといつもの"しょうがねぇな"と言わんばかりの表情で笑っていた。

ーえ?どうして笑うの?

そう尋ねたかったけどハンビンは私の腕を掴んだままツカツカと歩き出すから、何も言えずただただハンビンに連れられるがまま、小さくなっていくジウォンを見つめる事しかできなかった。

ジウォン。
怒ってるんじゃないの?悲しくないの?呆れてるんじゃないの?
どうして、いつものように笑ってみせたの?

「…ナ、ヌナ!聞いてる?」
「あ!ごめん、何か言った?」
慌ててハンビンの方を見つめると困ったように私を見つめて少し強引に唇を重ねた。

「…んっ……」
唇が離れるとハンビンは私をきつく抱き締めた。
ーあ、また。
私の知らない甘い香りが鼻を掠めた。
たけど、何故だろう。
不思議と心は苦しくなかった。
それどころか今の私の頭の中を占領するのは、あの別れ際のジウォンの笑顔たった。
きっとジウォンのあの笑みに私の心は囚われたのかもしれない…

だけど、大丈夫。
気付かないフリは得意だから。
心の蓋を、きつく…きつく…閉めた。

そしてまた、ハンビンは知らない香りを纏ってその冷たい腕で私を抱きしめて言うの。

「ヌナだけを…愛してるよ」
彼の手が私の頭をそっと撫でた。
私もいつものように答える。

「…私も、愛してる」

ほら、言えたでしょ。



…END.