ホテルの部屋に入るとこのみは言葉を失った。そこには暗闇の中光輝く宝石たちがキラキラと窓の外を飾り立てていた。
ルビーにサファイヤ、アメジストやダイヤモンドそれにエメラルド、まるで空から巨大な宝石箱をひっくり返したようなそんな景色が広がっていた。
このみはゆっくりと窓へと近づき宝石たちを見下ろした。
「ありきたりな言葉だけど…美しいね」
そう言ってこのみは宝石たちを見つめた。
俺はこのみの隣に立ち窓の外を見下ろすこのみを見つめていた。そんなこのみを見ていると俺は鼻の奥が熱くなり何だか無性に泣きたくなった。
そんな俺に気づいたこのみが「どうしたの?」と俺に視線を合わせて尋ねた。
俺は「なんでもないよ」と答えて微笑んだ。このみは俺の方へと体ごと向けたて心配そうに首を傾げた。
「……だけど、泣きそうだよ?」
どうして、彼女にはわかってしまうんだろう。
俺はこのみに座ろうか声をかけとソファへと促した。
ホテルの俺の部屋にこのみが居る。この空想のような今を現実にする為に俺はこのみに視線を向けた。確かに彼女はここにいる。このみは両手を膝の上に置いていて、少し緊張している様子だった。俺は左手でそっとこのみの右手を包み込んだ。このみの右手はピクリと少しだけ動いた。
「…大切な話があるんダケド、聞いてくれる?」
このみは小さくコクリと頷いた。
俺は握っていた左手にさらに力を込めた。
「俺、黙ってたケド…実は韓国のグループでBIGBANEの、G-dragonなんだ…ごめん、言えなくて…怖かったんだ」
このみは俺の手を握り返した。
俺は一度、握り返された手を見つめ視線をこのみに戻した。
このみはその大きな瞳からぽろぽろと大粒の涙を流していた。
「…ごめん、なさい」
「ナンデこのみが謝るの?悪くないジャン」
このみは首を大きく横に振り、両手で俺の左手を握りしめた。
「悪いの…私、本当は知ってたの。ジヨンがG-dragonだって…」
「エ?」
思わず声が漏れた。
知ってた?何で?いつから?
まさか…
俺の頭の中に黒い靄が広がり俺の思考を支配していく。
そんな事はない。きっと何か理由がある。
彼女がそんな子じゃない事はわかってるはずだろ。
「たまたま、ネットニュースで見かけて…」
そうだよな、今の時代、何でもネットで知れる。そうやって俺たちの情報がこのみの目に止まる可能性だったあったはずだ。
俺はそっと瞳を閉じてこのみの紡いでいく言葉の続きを待った。
「…だけど、ジヨンは触れて欲しくなさそうだったから…だから…っ黙ってたの…」
そう言って涙を流し、苦しかった言ったこのみ。俯き弱々しく俺の手を握るこのみはとても脆くて、切なくてそして、とても美しかった。
俺は自分を抑える事をやめた。
片方の手をこのみの頬に添えて親指でそっとこのみの頬を伝う涙を拭った。
「大切な話、もう一つあるんだ」
俺はこのみの瞳を真っ直ぐに見つめた。
「怖かったって言ったデショ?…このみに会えなくなったら凄く怖い…俺、怖いのはイヤだ…だからこのみにただ、側にいて欲しい…かっこ悪りぃケド、これが本心なんダヨ」
俺の言葉を静かに聞いていたこのみはゆっくりと答えた。
「かっこ悪くたっていい…完璧なんかじゃなくていい…ただ、ジヨンがいなくなるのは怖いよ」
そう言ってこのみは頬に触れてる俺の手に自分の手を重ね、まるでその温かさを確かめるように瞼を閉じた。
「側にイテクレル?」
そう問いかけるとこのみは柔らかく微笑み頷いてくれた。
俺はそっとこのみの唇を指でなぞりそのまま静かに口付けた。
唇を離すとこのみは恥ずかしそうに笑った。
そんなこのみを見て俺も笑った。
このみの瞳には俺が映ってる。
そして、俺の瞳にはこのみが。
こんな宝石のような時間が愛しくて、幸せで、ずっと側にいて欲しくて俺は逃がさないようにこのみごときつく抱きしめた。
if you 第6話 fin.