私は、嘘つきだ。
「じゃあ明日、場所と時間はLINEスルヨ」
電話を切った私は、大きく息を吐き出した。
さっきまで私と彼を繋げていた携帯を見つめ、彼の事を考えていた。
何だか真剣だった彼の声。いつもと違う人みたいだった。
もしかしたら、ばれたのかもしれない。
私が彼に黙っている事が。
私は、知っている。
彼がBIGBANEのG-dragonだって。
ジヨンに初めて会った日から何日か経っていた、ある日。
私は仕事の休憩時間で、暇を持て余しスマホをバックの中から取り出した。
ネットニュースでも見ながら時間を潰そうと考えていた。
そんな時ある記事が私の目に留まった。
記事の内容は全く頭に入って来なかったけど、ただ、私の視線を捕らえて離してくれない、一枚の写真。
この人、知ってる。
ジヨン。
BIGBANE、G-dragon、ワールドツアー。
私の知ってるジヨンとは結びつかない言葉ばかり。
だけど、間違いなくジヨンだ。
幾つかの写真の中に屈託なく笑う彼を見つけた。
やっぱりジヨンだ。この笑顔は知ってる。
確か最初の頃、ジヨンに職業を聞いた事があった。その時は音楽関係って答えてて、それ以上聞いて欲しくなさそうだったから敢えて何も聞かなかった。
彼がその事実を私に隠したいのなら、私はそんな彼を尊重しようと思った。
黙っていようと。
この時、私は決めた。
それから、ジヨンとは連絡を取り合ったりした。だけど、何となく私からは連絡できなかった。
そんな事を知ってか知らずか彼は、ほぼ毎日連絡をくれた。たまに、食事にも行ったりもした。なるべく遅い時間がいいと、私はジヨンに告げた。
会話なんて他愛もないものばかりだったけど、彼との時間はとても楽しかった。
だけど、それと同時に淋しくもあった。
どうして隠してるのか…
どうして何も話してくれないのか…
私は彼の事を知らない。
名前はクォン ジヨン。
歳は私と同い年。
仕事は、音楽関係。
こんな事くらいしか知らないけれど、ネットとかでは知りたくはなかった。彼を知るならジヨンの口から直接、聞きたい。
あの初めての雨の日、傘もささずに立ち尽くす彼を目にしたとき映画のワンシーンでも見ているような、そんな気分になった。
彼はとても綺麗だった。
声をかけて、二人で牛丼を食べて、
私の韓国語を笑う彼を見たとき
きっと心を持って行かれた。
あの時からジヨンは私の好きな人になった。
ソファーの背もたれに首を乗せ天井を仰いだ。
そして私はまた、大きくため息を吐いた。
ピロン。
LINEの通知がなった。
ジヨンからだった。
明日の場所と時間が慣れない日本語で書かれていた。
ただそれだけの事で、嬉しく思う。
だけど同時に苦しくもなる。
ジヨンのLINEを見つめながら、私はまたため息をついた。
ジヨンが韓国に帰ってしまうならきっと話せる機会は明日しかないはず。
そう思いながらも、決心のつかない自分に腹が立つ。
もう!と言いながら私は立ち上がった。
そして、そんな自分に罵声を浴びせながら私はもたつく足で寝室へと移動しベッドへ寝そべった。
「バカ!アホ!意気地なし!根性みせろよ!嘘つき!結構、歳いってんだから今更怖いものなんてないはずでしょ!?」
滑稽だ。
自分でも、笑えてくる。
「……でも、ジヨンと会えなくなるのは怖いよ」
寝室のベッドに寝転び、独り本心を口にしたら何だか無性に泣きたくなった。
でも、素直になんて泣けない。
色んなものが涙腺にブレーキをかけた。
「バカ!泣きそうになんかなっちゃダメ!もういい歳なんだから!バーカバーカ!」
私は一人、ベッドの上で延々と終わることのない自分への叱責を重ねた。
if you 第4話 fin.