こんにちは。千葉です。
本日のお日柄に、後で補完する、と決めて手をつけられずにいたキタエンコのショスタコーヴィチ交響曲全集を聴くシリーズに手をつけることにしました。アップしたのはその翌日になってしまいましたが…

そのお日柄というのが、このブログではお決まりのメーデー、であります!本日この日にはこの曲を聴くしかないのです、そう、交響曲第三番 変ホ長調op.20『メーデー』(1929)。

Schostakowitsch: Die Symphonien [SACD]/Shostakovich
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単一楽章で構成される交響曲は大きく五つの部分に分けられるけれど、主題が二度繰り返されることのない展開の連続に翻弄されて、最後にたどり着くのはキルサーノフの詩による合唱がもたらす大団円。もうどうしろと?(笑)まぁ、この独自の構成には社会主義ソヴィエト初期の、芸術分野におけるアヴァンギャルドの空気を反映してもいるのでしょうし、千葉はこういう脈絡が見失われるぎりぎりの線、好きなので好いんですけど。これが若きショスタコーヴィチの大学院修了作品であることがまた、ねぇ(笑)。コンサートではめったに聴かないですよね(笑)、人気の低さがうかがわれる感じです。


では録音を見てみましょう。せっかくなので、補完版もいくつかの演奏を聴き比べましょう。

まずはロジェストヴェンスキーとソヴィエト文化省管弦楽団の録音。

Shostakovich: Symphonies Nos. 1-15; Orchestral .../Sergey Yakovenko
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彼らの演奏、実演で聴くことができた人ってどれくらいいるんでしょうね?来日公演の際には楽器が届かないトラブルがあったりして、本来の彼らの演奏かどうか微妙な感があったと聞きますし…

そんなことが気になるのは、この非常に癖のある録音からどの程度まで演奏を判断できるかな、と聴くたびに思ってしまうのです。デジタル録音最初期問題のひとつ、かもしれませんけれど、この音質はどうかなぁ…


それはともかく、この演奏はかなり独特なコントロールが随所に見られて面白いです。グリッサンドの描写に対する偏執的とも言えるこだわりはなかなか効果的(どんな?)。場面ごとにまったく別の曲に聞こえるほどの描き分け、この曲ではありかなと思います。


もう一つ録音を紹介するなら、フェドセーエフとモスクワ放送響の録音になりますが、これは以前に書いた記事を参照ください 。文字どおりのシュプレヒコール、これまた効果的ですね。


そしてシリーズで取り上げたキタエンコの録音は手放しで拍手!
最初にこれを言っちゃいけないかもしれないけど、SACDならではの録音の良さがもう!弦と管、打楽器に合唱とそれぞれに指向性の異なる響きが見事に聴き取れるのはさすが。コーダ前のオーケストラのトゥッティによるユニゾン、これほど情報量多く響くのね、とわかってしまえば実演でも聴いてみたくなります、あまり期待はできないですが(笑)。


その録音に負けず、オーケストラもきっちり仕事をしています。ソリスティックな扱いが多いこの曲、オーケストラの力量が出てしまいますからね、これだけ頑張っていただければ文句はありません。合唱を先導(煽動)するように響きわたるトロンボーンとホルンのユニゾン、これだけ録音が良いとどのように人々に届くかよくわかりますね。


そしてマエストロ、細部に至る作りこみが素晴らしい!
第二番とは傾向こそ違えど徹底的なポリフォニーへの嗜好は明らかなこの時期のショスタコーヴィチを、これほどの描き分けで聴かせてもらえるのは、自分の耳が良くなってその分理解度まで上がったような錯覚がするほどの経験です。いやお見事。また、行進曲的な展開も良いのだけれどこの演奏ではテンポの遅い部分の仕上がりがまた良いのです。トラック7、9ようなセクションに説得力が出てくると、この作品の性格まで変わってしまいそうです(笑)。


そう、そこがもしかすると評価が分かれるかもしれません。千葉は、この曲を「プロパガンダ擬装を施したモダニストの遊戯」とみてしまうので、この演奏に感じられる本気さ、というか真摯さに戸惑ってしまうところがあります。「かしこまりました、では党のテーゼを高らかに歌いましょう!」と割り切ってキッチュを確信犯として作り出すショスタコーヴィチではなく、五月最初の日に高揚を感じて革命の明るい未来を歌いあげるショスタコーヴィチ。前者の読みとりをこれまでは説得的だと思ってましたが、別にどちらが正解、ということもないし演奏によってまた違った読みとりを提示されるのは喜ばしいことだと思います故、この演奏を称えたいと思うのです、いま一度拍手を。


以上、キタエンコのショスタコーヴィチシリーズの補遺第一弾、でした。一部に以前アップした文章との重複があることはご容赦くださいませ!では本日はこれにて、おやすみなさい。