こんにちは。千葉です。

寒い、なんて神奈川県で言っていてはいけないとは思うけれど、寒いものは寒いです。防寒具の不備を感じますね、やれやれ…


さて、本日のマーラーは交響曲第六番。大好きな作品なので、迷いに迷ったその挙句にこの演奏を選びました。

Mahler: Symphonie No.6/Gustav Mahler
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「悲劇的」の通称でも知られる劇的な交響曲、もちろん千葉はバーンスタインの演奏で知り、その演奏を不動の基準として愛聴していました。あとでその録音を取りあげる時に詳述すると思いますが、晩年のバーンスタインの感情移入のただならぬことこの演奏に極まれり、とも思える演奏が"スタンダード"ってどうなのよ、と今なら思うところもあるけれど、1990年から数年はバーンスタインの演奏ばかり聴いていました。


そこから少し、バーンスタインの影響を相対化できるようになったきっかけが、もしかするとこのディスクにあったかもしれない、そんな一枚がこのブーレーズ指揮ウィーン・フィルによるこの録音なのです。


もう十五年前と言うのがいささか恐ろしいのですけれど、ピエール・ブーレーズ生誕70年の年前後に、ドイツ・グラモフォンから彼の新録音の数々がリリースされていました。
はじめのうちは彼のイメージどおり、機能的なオーケストラとのフランス近代の作品を中心としてリリースされ、吹奏楽からクラシック者になった千葉には大いに嬉しかったものです。ブーレーズのコントロールは明解だしオーケストラは上手だし、何より録音が良くなったように思われましたし(当時の評価、最近はあまり聴いていないのでコメントしにくい←歯にものが挟まってるぞ)。この頃にはバーンスタインの録音もある程度は集まって過去のライヴ録音が発掘される前でしたから、ブーレーズはラトルと並んで最も新譜のリリースを心待ちにしていた指揮者だった、と言えます。


しかし彼のレパートリーにおけるマーラーの位置づけがよくわからなかった当時、このディスクは発売されるまで気にはなるけどどんな出来になるやら想像もできずにいました。BBC響との怪しげな録音は持っていたけれど(たぶん放送録音、第五番と第九番)、そこからなんとか聴きとれた「即物的」に過ぎる演奏と、1994年の新録音から想像されるブーレーズとウィーン・フィルが創り出す音楽はどうにもミスマッチに思われて。いえ、この辺の感想は千葉がものを知らないだけ、かもしれませんのでこの辺で。


さて、ようやく本題のディスクが発売されて、千葉は輸入盤を待てずに国内盤で購入しています(ゴールドCDって、ちゃんと音質上のメリットがあるんでしょうか?劣化はし難いのかな)。
そしてその音楽はどうだったかといえば、徹頭徹尾バーンスタインの影響下にあった千葉には衝撃、の一言に尽きるものでした。もちろん、ドビュッシーはブーレーズに教わったようなものですから、彼の演奏を知らなかったわけではない。でも同じ作品、それもバーンスタインが最も得意とする作品を六年の時を隔ててはいるものの同じオーケストラを指揮してこれほどまでに違う音楽になるのか、そしてそれはこんなにも説得的なのだ。その認識が衝撃的でした。

恐ろしいほどに冷静に、楽譜から"ストーリー"ではなく音響を再現前させる彼らの演奏に、当時は混乱しました。ちゃんと聴く限り、どうしても否定できないほどの説得的な、しかし自分のそれまでの認識とは全く異なる性格の演奏に出あって。でもこの説得力に気づかないこともできず、スコアを眺めたりチューバをさらって理解に務めたものです。

その甲斐あって、きっと自分の中でちょっとしたパラダイム・シフトができたんでしょう、ブーレーズの録音もよく聴くようになりました。それこそ、スコアのお供だった時期もあります(おかげで、一箇所派手なミスに気がついちゃったけど)。


と、こんなにいろいろと書きたくなるくらい、けっこうな思い入れのあるこのディスクですがその後はそれほど聴いていなくて、今日は本当に久しぶりに手に取りました。でその感想が、恐ろしいほど当時と変わっていないことに驚くやら安心するやら。


録音の良さもなかなか(このレーベルが提唱した4Dなる録音方式は、後にちょっと不思議な硬い音になっていくのだけれど、このディスクは大丈夫です。オケと会場のおかげかも知れない)、演奏の見事さも特に記憶で美化されたりはしていない模様。指揮者の明晰なる認識と、オーケストラの個性が互いを助け合った、幸福な演奏の記録ですね、これ。通称は悲劇、なのだけれどこの演奏はある種の「プロット」によってではなく、その音響によってその展開を語り得ているところが素晴らしい。いやはや、ブーレーズ氏への敬意をいま一度新たにいたしました。そしてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団がまたこんな演奏のできるオーケストラでいてくれますように、とお祈りをしておきましょう。


作品については、きっと違うタイプの演奏で語るべきかと思います故、今日のところは簡単ながらひとまずここまで。ではまた。