ヴァイオリン演奏の概論その3.音程について | ヴァイオリニスト 山崎千晶 

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音楽シーン盛りだくさんの内容でお届けします。

これを読んで勉強しようと

思われる音大生や

教師の皆さんは、ぜひ

まずプリントアウトして

じっくり読み返すことを

おススメいたします。

私個人で目からウロコだったのは、

「Es durの場合の音程調整で

Aを使うのは良くない」

というくだりです。なるほど!

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

1.ヴァイオリン演奏の概論その1

2.ヴァイオリン演奏の概論その2
 左手のポジション移動

今日はその続きです。

とりあえずざっと直訳しているため

日本語がおかしいところは

多少ご理解お願いします。


<音程>
演奏の大きな柱のひとつは

確実な音程である。
ヴァイオリン演奏上の

いくつかの不出来な部分は

それなりに見逃されるこも

あるが、しかし音程が

良くない場合に見逃される

ことはない。

 

ヴァイオリンは

鍵盤楽器のように音程が定められて

いるという機能が欠けている

楽器である。

だから開放弦以外は自分の

耳に頼らなければならない。

 

個々の音程に対していち早く反応し、

すぐに修正する耳を

普段の練習から養わなければ

ならない。

誰でも音程が悪くなることはあるが、

それをどれほど速いリアクションで

修正できるかにかかっている。

 

弦楽器奏者はふたつの音程を

行き来している。
純正律と平均律である。

ここでこのふたつの音程の

すべての原則について

長々と述べるつもりはない。

 

その実際の使い方は次のことを

知っておくことである:

ピタゴラス(紀元前580?-481?)

は完全5度ずつ、音が12回

上がってゆく(=7オクターブ)とその音は

10分の1ぐらい高くなる

ことを発見した。
この差のことを

「ピタゴラス・コンマ」という。

そのことから現実には

全音の中にも大きい、

小さい、また半音の中

にも大きい小さいが

存在するということである。


実際には大きい、小さい

全音と大きい、小さい

半音が存在するということである。

 

この差の存在はきれいに音程を

合わせたD、A,E線において

1の指のA線のシを弾き、

その後D線、そしてE線を

弾くと音程があわないのが

わかる。

音程が低すぎてしまう。

 

他の良い例では

CisとDesの音である。

ピアニストは同音の♯と

♭は同じに聞こえる

ので区別することはない。

 

それに対して弦楽器奏者は

直感的にその違いを

感じる。

Cisの音は高い方向に向かい、

 Desの音は低い方向に向かう。

ヴァイオリニストはピアニストに

比べ、音階においても

違う感覚を持っている。

 

例えば長調の音階では
1-2,4-5,6-7の間(訳注:
ハ長調で言えばド-レ、

ファ-ソ、シ-ドのこと)

の全音、2-3, 5-6,
(ハ長調で言えばミ-ファ、

ソ-ラ)間の半音。

そしてまた全音階内での半音(c-des)

の場合はこのふたつの音程は

より狭くなり、

半音階内での半音
(c-cis)は上記よりはひろく取る。

ピアノにおいては、この

違いはなく、すべて同じと

されるので平均律となる。

このような違いを理解する

ことはバイオリニストにとって

とても有益であり、

さまざまな場面で不透明な

部分に答えをくれる。

しかし、難解な音程構造に

関する細かい規則は音楽学者に

まかせることにしよう。
ただ、このような響きの

基本的な知識をもっておくことが

音楽的な良い耳を養うのに

重要である。


18世紀初頭にオクターブが完全に合っており、

12音の半音階が均一になっている

「平均律」が確立された。

鍵盤楽器はこの音程設定方法によって

便利なものとなったが純正律

にとっては多少不具合がもたらされた。

 

ヴァイオリン奏者はピアノが平均律で

あっても、そこで何らかの妥協点を

見出し、常に純正律で音程を取る。

幸い、この音程の差はわずかであり

ほとんどの場合直感的に修正する。

 

<音程のなおし方>
単音の音程は隣の弦の

仮の音を利用してコントロールできる。

開放弦は安定した音の軸となる

ため、まずは調弦をきちんとする。
そして、直す音を上、あるいは下の

音と一緒にみてゆく。

 

素早い音程の修正はまず

開放弦を含むアコード、

和音を弾くことで修正する。

幸い、ヴァイオリンでは

和音、特に4音の和音を

同時に弾くことはない。

それらは分けて弾かれるので

その分音程を直す時間がある。

 

例題6.

 

a)A線の1の指は高くする

b)E線の開放弦から合わせないとこの和音の音程は合わない

c)分けて弾くことで修正する時間が作れ、いち早く直すことが出来る

 

隣の弦を使って音程を修正するケースは

よくあり、ここで紙面を費やすこともないで

あろう。

注意していただきたいことは、隣の弦を利用

する方法の音程修正は演奏する曲の、

その場所の調性をみて、そこから修正する音の

和音をみて、行うことである。

例えば、Esdur=変ホ長調を演奏する際、

シ、ミ、ラh,e,aなどを使うのは良くない。

 

いくつかの調はその自然な音程の傾向がある。

まずは長調、短調とも7番目の音である。

これは必ず高い方向に向かう。

その次がドミナントの7番目の音。これは

非常に強く下に引っぱられる。

このどちらの音程傾向も、まず

増4度で取りそして短6どで取る:

 

 

単音の場合のきれいな音程の

取り方は常に隣の音との

響きと関係とつながっている。

響きがクリアであれば

音程は良い。

だからこそ(モーツァルトなど)

古典派作曲家を演奏する場合に

音程の取り方がより繊細に

なってくる。

 

音程の修正は演奏最中に

修正することは出来ない。

これは曲を習う初期段階で

じっくりと平穏に行うことである。

私たちはまず、音程に対する

鋭敏で直感的な良い耳を

日ごろから養うことを心がける。

それによって常に安定した音程で

演奏できるようになる。

 

(次回:重音の音程に続く。)

 

 

 

写真:プラハのおもちゃ屋