恋愛小説書いてます。 -2ページ目

告白

「はぁー、お寿司美味しかったですねぇ」


まひろはうっとりとした表情を浮かべた。


「うまかったなー。特に大トロの炙り」


「はい!美味しすぎてどうしようかと思いました」


まひろが真面目に答えるのが可笑しくて、くくく、と笑いを噛み殺しながらも、亮介は愛しげな視線を注いでいた。



二人がいるのは、ホテルの最上階ラウンジ。

眼前に眩いばかりの夜景が広がるカウンターに、並んで座っている。



「・・・あの、そんなにじっと見ないでくれませんか」


先ほどから向けられている甘い眼差しに、耐えかねたまひろは目線を窓の外に向けたまま、少し頬を高潮させていた。


「だってまひろちゃん可愛いねんもーん」


亮介は少し酔っているようだ。

上機嫌に微笑んでいる。


「恥ずかしいです」


嬉しく思う反面、恥ずかしさがどうしても勝ってしまい、素直には喜べないまひろであった。


「なぁ、ちょっとこっち向いて」


「?」


促されるままに亮介の方に顔を向けると、ふっと視界が暗くなる。


頬に、柔らかな感触。


キスされている、と気づいたときにはもう唇は離れていた。


いきなりのことに動揺を隠せないまひろは、声を出すことも出来ずに、固まった表情のまま亮介を凝視する。


「まひろちゃん、俺のものになりなさい」


口許は笑っていたが、鋭い瞳はまひろを捕らえて離さない。

いつの間にかすっかり酔いは醒めている。


「・・・っ」


ドクン・・・とまひろの心臓がひとつ大きく跳ねた。

体の芯がみるみる熱くなる。

ああ、この人に捕らわれてしまう・・・そう強く思った。


そして・・・


「・・・はい」


まひろは蚊の鳴くような声で、精一杯の返事をしたのだった。


「ほんまにええの?」


先ほどの自信たっぷりな態度はどこへやら、不安げにまひろの顔を覗きこむ。

この男、強気なのか弱気なのか、はたまた計算なのか。その実態は誰にも計れない。

それをこれから解き明かすことが出来るのは、唯一まひろだけなのだろう。


「え、と。はい、よろしくお願いします」


トクントクンと鳴り止まない心臓を押さえつつ、まひろははっきりとそう伝えた。


「・・・はぁー」


「ど、どうしたんですか?」


急にテーブルに突っ伏す亮介をまひろは心配そうに見つめる。


「すげぇ嬉しい」


どうしてもニヤけてしまう自分を見られたくない亮介が、顔を伏せたまま呟くと、つられてまひろまで顔が真っ赤になってしまった。


ムーディーな最上階のラウンジで、いい大人が二人揃って真っ赤になっている様はかなり微笑ましい光景といえる。


が、当の二人にとってはそんなことを気にするどころではない。



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二度目の逢瀬 2

「まひろちゃん」


道路をタクシーが通り過ぎるたびに、亮介が乗っているのではないかと目を凝らして見ていたまひろは、その肩をポンポンと叩かれるまで気配に全く気づかなかった。


「わ・・・びっくりした」


「真剣な顔してたけど、どうしたん?」


「タクシーって言ってたから、どれかに乗ってるかなと思って見てました」


えへへ、と恥ずかしそうに微笑むまひろの笑顔が、亮介の目にはキラキラと輝いて見える。

恋の力は偉大だ。


「ほな、行こか」


そう言って、亮介はまひろの手を取った。


「あ・・・」


あまりに突然のことに振りほどく暇はなかった。

亮介の手は大きくがっしりとしていて、まひろの小さな手はすっぽりと収まってしまう。

手のひらから伝わるほのかな温もりと、必然的に縮まる二人の距離にまひろの心臓は早鐘を打ち始める。


人ごみを器用にすり抜けて歩みを進める亮介に、まひろはたまらず声をかけた。


「あ、あの・・・」


「ん?どしたん」


「手、放してもらってもいいですか」


しばらく前だけを見て歩いていた亮介が、足を止めてまひろに向き直った。


「なんで?」


そう尋ねる亮介の目は真剣そのものだ。

まひろはびくっと肩を揺らした。


「・・・その、私、緊張すると手にすごく汗かいちゃうんです」


まひろの頬はみるみる赤く染まっていく。


「だから、佐々木さん、気持ち悪いんじゃないかと思って・・・」


それだけようやく言い終えたまひろの耳は真っ赤になっていた。


「ぷっ、あはは!なんやそんなことかい」


亮介はケラケラと笑い出した。

その様子をまひろは目を丸くして見つめている。


「ほんまに、まひろちゃん可愛すぎるわ」


「え?え?・・・・なんで」


亮介の言う意味が理解できないまひろは、目をパチパチと瞬かせた。


「そんなん、俺が気にするわけないやん」


ひとしきり笑い終えた亮介は愛しげにまひろを見つめた。


「俺が繋ぎたくて繋いでんねんからさ」


にこっと優しく笑う亮介に、まひろの胸は否応なしにときめいた。


―ああ、私この人が好きだ―

そう素直に思えた。


「嫌がられてんのかと思って焦ったやろー」


そう恨めしげに呟きながら、亮介はまひろの赤いほっぺをむにっとつねった。


「い、嫌とかそんなん、あるわけないじゃないですか」


引っ張られた頬はそのままに、まひろは言い返す。


「ふーん、てことはついに俺に惚れたか」


冗談めいた口調でからかう亮介。


「・・・・」


「・・・え?」


赤い顔で黙ったまま俯くまひろを、亮介は遠慮なく覗き込んだ。

まるで、宝物を見つけた子供のような目で。


「おいおい、まじで」


たまらず顔を背けるまひろを、さらに目を輝かせ亮介は見つめる。


「さ、佐々木さん!早く行かないと予約の時間過ぎちゃいますよ!」


そう早口で捲くし立て、まひろはずんずんと一人で歩き出した。


「店そっちちゃうねんけどー」


言いながらまひろを追いかける亮介はこの上なく楽しそうだった。


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二度目の逢瀬 1

待ちに待った金曜日。

まひろは朝からずっと落ち着かない気持ちを持て余していた。

デスクに座って仕事はいつもどおりにこなしていたが、誰の目から見ても心ここにあらず、といった様子である。


今日のために買い足したフワフワと手触りの良い薄いピンクのニットにブラウンのAラインスカート。

亮介が気に入ってくれるといいなぁ。

そんな思いが自然に湧き上がってくる。

すっかり恋する乙女モードなまひろであった。




「社長、今日デートでしょう」


運転席からバックミラー越しに井澤が問いかけた。


「そうやー。よう分かったな」


朝から機嫌の良い亮介は特に隠す素振りもなく、素直に答えた。


「分かりますよ。そのスーツを見ればね」


ん?と自分のスーツに目をやる。

今日は、少し光沢のあるグレーのスーツを着ていた。

亮介の引き締まった体のラインを余すところな魅せつけ、シンプルな白のカッターシャツの襟元にはシックな黒のネクタイが締められている。

世の女性なら誰でもクラッときそうな、大人の男の色気がふんだんに醸し出されていた。


「それ、こないだ仕立てたやつでしょ」


「そうそう。なかなかええやろ?」


亮介は嬉しそうに井澤に見せ付けた。


それを横目で確認しつつ、井澤は呆れたようにため息を漏らす。

この男が社長である亮介に対してこういう態度を取るのは、かつて二人が同じ製薬会社に勤めており、入社時から亮介とは先輩後輩の関係にあったからだ。


「まひろちゃん、でしたっけ」


「気安く名前で呼ぶな。山本さんと言え」


「はいはい、山本さんです」


「よろしい。

まひろちゃん、ほんまにかわいいわー」


まひろのはにかんだ笑顔を思い浮かべつつ、だらしなく目尻が下がる亮介。

その様子に「やれやれ」と苦笑しながらも、昔からやたらと女性には人気があり、数々の浮名を流してきた亮介に、やっと本命の女が現れたことには少しホッとしている井澤だった。



PM6:00



仕事を終えたまひろは、そそくさと会社を後にしていた。


~今仕事が終わりました。どこで待っていたら良いですか?~


仕事中かもしれないので、メールで亮介に連絡を入れておく。

しばらくは返信がないだろうと思い、会社の近くのカフェに入ることにした。


「ご注文は?」


「カフェモカをホットで」


かしこまりました。とウェイターが小さく会釈をしてカウンターへ戻っていく。

まひろは柔らかなベルベットのソファーの背に身を沈めて、ふぅ、と息を吐いた。


時間が刻一刻と進むにつれ、

早く会いたいような、会いたくないような不可思議な気持ちが込み上げてくる。

気になって仕方ないのに、近くにいると目を反らしてしまう、まるで幼い少女のような恋心が自分に芽生えているのを感じていた。

もう大人なのに・・・そう分かってはいても、人は恋をすると感情のコントロールが効かなくなる。


「カフェモカお待たせいたしました」


とテーブルにカップが置かれるのとほぼ同時に、携帯がブルブルと震えた。ありがとう、とウェイターに目だけでお礼を伝え、すぐに通話ボタンを押す。


「も、もしもし」


急いで出たせいで、ついどもってしまった。


「おー俺、佐々木」


しかし向こうは特に気にする様子もなく、先日と変わらず明るい調子だ。


「お疲れ様です」


「お疲れ。今どこ?」


「会社の近くです。佐々木さんは?」


「俺はタクシーで今梅田の方に向かってるよ」


「そうなんですか。じゃあ近いですね。どこにいましょう?」


「新地の店予約してるから、道路沿いのコンビニの前におってくれへん?」


「わかりました」


「あと15分くらいしたら着くと思うし」


「はい、じゃあ後で」


「うん」


電話を切ってからも、まひろの心臓は一向に落ち着きを見せない。

「もうすぐ会うんだ・・・」

そう呟いた途端、胸がきゅっと締め付けられた。




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