いろいろあって久しぶりのブログです。皆さま、お元気でいらっしゃいましたか?

 

 

さて、20年もレストランをやっていると、カップルだったお客さまがご結婚され、お子さまが誕生され、そのお子さまが成長されてご両親と一緒にうちに来られるようになり(一説によるとそれを「コパンデビュー」と呼ぶそうで)……ということが時々起こります。

 

これはですね、想像以上に嬉しいことなんです。すべてのお客さまを公平にと思いつつ、ついそわそわわくわくしてしまう。『お口に合うかしら』『楽しんでいるかしら』と、祈りながら見守ってしまう。20年前にお店を始める前は、まさかこんな経験ができるとは夢にも思いませんでした。

 

うちの常連のお客さまのお子さまは、例外なくちっちゃい頃からマナーがしっかりしています。カトラリーの使い方も完璧で、静かに黙々と、そしておいしそうに完食してくださる。素晴らしい。すでにちっちゃなレディ、そしてジェントルマン。

 

振り返ってみてわたし自身、初めてフランス料理を食べたのは、確か24歳……。たぶん、平均よりかなり遅いと思います(シェフは高校の時の「マナー教室」だったはず)。なぜって、ずっとベジタリアンだったから。イギリスのロックにのめりこんでいたわたしは、当時の推したちがこぞってベジタリアンだったので自分も、という限りなくチャラい理由でベジタリアンに。当時は今のようにベジタリアンやビーガン向けの店やメニューが豊富ではなかった時代、外食は困難を極め、マックで食べられるのはポテトのみ(ウェンディーズのベイクドポテトが好きだった)、たいていはインド料理店やタイ料理店へ行ってました。フランス料理? いやいや、無理無理。だってメインディッシュが食べられないもん。

 

初めてフランス料理を食べた時のことは、今も覚えています。そう、あれは、お茶の水の、山の上ホテル。

 

ただし、場所は覚えていても、まだベジタリアンだったはずなのに何を食べたのか、そもそもどうして行くと決めたのか、そのあたりはまったく記憶がありません。それでもしっかり覚えているのは、我ながらナイフとフォークの使い方が下手くそすぎて、ひとさまと一緒に食事をしていてもそのことばかり気にしていたこと。そう、ベジーなわたしは、カレーを手づかみで食べた経験はあれど、ナイフとフォークで食事をした経験がまったくなかったのでした。

 

なぜ山の上ホテルかというと、当時、会社帰りにお茶の水のアテネ・フランセに通っていたから。フランスなんてずっと大嫌いで(ちゃらちゃらして気取ってたから)、学校でも第二外国語でフランス語を避けていた自分が、何を血迷ったかせっかく就職した優良企業を辞めてフランスに行くと決め、多少は話せないとね、ということで通いはじめたのでした。

 

アテネ・フランセのクラスメートに誘われて、学校帰りに寄ったのが、山の上ホテル。クラスメートといっても、40~50代の男性です。趣味でフランス語を勉強していて、たまたま何度か席が近くなって、雑談をするようになった相手でした。

 

勤め先でも40~50代男性の上司や先輩たちと一緒に仕事をしたり、飲みに行ったりすることが多かったわたしは(同年代の男性とはほとんど交流がない変わり者だった)、あまり違和感なく、誘われるままにほいほいと出かけたのでした。でも、相手は場慣れしているというか、立ち振る舞いが至極スマート。居酒屋ばかり行っているうちの会社の上司や先輩たちとはちょっとジャンルが違います。店内に入るなり、いきなり緊張でがちがちになるわたし。数々の文豪に愛された、歴史と趣のある建物の雰囲気にのまれてしまったというのもありました。世間知らずで、怖いもの知らず、クソ生意気なロック少女(という歳でもないが)だったわたしが、心の底から気後れをした初めての場所でもありました。

 

ウッディで落ち着いたムードの店内。歴史を感じさせる重厚なインテリア。真っ白でシワ一つないクロスがかかったテーブル。クラシカルなスーツに身を包んだ、エレガントな動きの給仕。ずっしりと重いシルバーのカトラリー。繊細な意匠の磁器プレート。曇りひとつなく磨かれたクリスタルグラス……。

 

何もかもが、初めての体験でした。

 

おそらく、わたしがベジタリアンだといきなり知らされても、嫌な顔ひとつせずに対応してくださったことと思います(忘れてしまいましたが)。大変申し訳ないことをしました……。

 

わたしはその時初めて、その歳上のクラスメートが某大手企業の重役であると知りました。その会社にいらっしゃることは知っていたので、「学校の同期で入社した子がひとりいます」と伝えてはいたのですが、とても大きな会社なのでまさか知るはずないと思っていたら、なんとその子の名前も配属部署も調べあげてきていました。

 

食事の作法も、給仕とのやり取りも慣れているふうで、『この人とは世界が違う……』と、アテネ・フランセの教室にいる時とはまるで別の人に見える相手に内心怯えていたのですが、ふとした時に相手の人のグラスを持つ手が震えているのを見つけてしまい、「あ、なんだ」と、一気に気持ちが楽になってしまった不遜な小娘のわたしでした。

 

あ、でも別に、食事を一度奢ってもらっただけですよ。

 

先日、30年ぶりくらいにお茶の水を訪れる機会があり、しかもアテネ・フランセのすぐそばでした。

 

フランスのことも、フランス料理のことも、世間のことも何も知らなかった頃。あの山の上ホテルで緊張したりホッとしたりした経験を、ほろ苦いような、胸がざわつくような、思わず「あーあ」とつぶやいてため息をつきたくなるような気持ちで、思い出しました。

 

創業70周年を迎えた山の上ホテル、老朽化対策のために全館長期休業に入ったようですね。

 

 

昨年は小説を4冊翻訳し、なんだかまったく暇がなくてバタバタしていました。今年は少し余裕を持たせたスケジュールにして、ブログも少しずつ再開できれば、と思ってます。

 

 

初めてスカイツリーに上りました。東京は思ったより綺麗だと思いました。

 

 

ライブに行って……。

 

 

おいしいものを食べて(もう緊張しないもん)……。

 

 

ちょこっと仕事もしてきました(お茶の水で)。

 

 

昨年訳した本たちです。