うちのお店をご存知ない方のために、まずはご紹介。うちの店内のあちこちには、ブロカント、英語で言うところのコレクティブルが並んでます。ブロカントとは古いグッズ、つまりはがらくたのことで、アンティークほど歴史あるものではありませんが(100年未満)、コレクターズアイテムとして愛好家に珍重されています。
シェフとわたしはむかしからブロカント好きで、とくにパリ滞在中は暇さえあれば蚤の市やブロカント市に出かけていました。今のわれわれのブックオフ通いは、たぶんこれがルーツです。がらくたの中から自分だけの宝(←ダイヤモンドよりキレイなガラス玉を好むタイプ)を探すのが好きなんですね、きっと。
さて、うちにあるブロカントの大半はフランス製ですが、そうではないものもいくつかあります。こちらのふたつの缶はオランダ製。フランス語も書かれているのでフランス語圏市場向けだと思いますが(en poudre solubiliséなど)、絵の雰囲気、色合い、デザインは他のフランス製とはまったくちがいます。
少年と少女、そして看護師(むかしはココアはお薬だったようです。あるいは修道女?)の服装もそうですが、"CACAO DROSTE"、"DROSTE'S COCOA"というロゴも、ダークな赤色も、蓋や裏面の意匠も、フランスのものとは全然ちがう。繊細で、暗めで、エッジが効いてて、写実的で、なんというか、「ああ、さすが、レンブラントやフェルメールを輩出した国!」と思ってしまいます(大げさか)。
フランス的なものに慣れてしまった身にとっては、この異国情緒がなんとも美しく思われて、とくにわたしにとっては(シェフはフランスおたくなのでそうでもないようですが)大事な品のひとつです。
ところが先日、知り合いのタイ料理店でこういうものを見つけました。
同じ! ……だけど、全然ちがう!
確かにデザインは一緒だけど、このロゴ、この朱肉を思わせる明るい赤色、女性のピンク色の肌と赤みを帯びた頰……もはやダークなオランダらしさはみじんもなく(女性の服装だけか)、これぞまさしく天然色のタイ。蓋と裏面の意匠もほぼ同じはずなのに、どう見てもタイの寺院を彷彿とさせます。
そしてわたしは、大変失礼ながら、これを見た瞬間、あるものを思いだしたのです。
……すみません。
いや! ディスる気はこれっぽっちもないです! このポップでキッチュなところがなんともステキです。うちの缶がバロック美術だとしたら、こちらの缶はコンテンポラリーアート。それぞれ素晴らしいではないですか。
ちなみに、この女性の手にするお盆には同じ缶が乗っていて、その缶でもこの女性がお盆の上に缶を乗せていて、その缶でも女性がお盆の上に缶を乗せていて、その缶でも……と、エンドレスに続く画像を、この缶にちなんで「ドロステ効果」というそうです。へー。