昨日の朝、目が覚めた瞬間、この世のあまりの空虚さにいっそここから消えてしまいたいとすら思ったので、さすがに「これはやばいかも」と焦りました。

 

これはある種の「病」です。この手の「病」を長期間患うとろくなことにならないと経験上知っているので、今後は回復に向けてひたすら努力する所存です。ですがその前に、この「病」の全貌をここに記録しておきたいと思います。

 

 

いったいなぜわたしはこのような「病」を患ってしまったのでしょうか。

 

 

……それは、「おっさんずラブ(連続ドラマ版)」を繰り返し摂取することで、そこに含有される麻酔作用および依存性を有する毒性物質がわたしの脳神経を刺激し、集中力の低下、記憶力の低下、睡眠障害、食欲減退、幻覚、手足の震えなど、社会生活を著しく妨げる諸症状をもたらしたからであります。

 

 

では、その毒性物質について、以下にご説明します。

 

※  同ドラマに関心がないという方、あるいはまだご覧になってなくて今後観る予定があるという方は、この先を読み進めることはやめてくださいませ。よろしくお願いします。

 

 

1)田中圭の演技

 

田中圭は、「おっさんずラブ」で主人公の春田創一(はるたそういち)を演じる俳優です。この人の演技は中毒性が高いのでくれぐれも乱用には注意が必要です。本作では、ひとつひとつの表情やしぐさやセリフが「春田創一」という人間性を実にリアルに表現しています。不自然なところ、破綻したところがまるでありません。

 

「春田の行動やセリフってさ、台本どおりだと牧に好いてもらえないっていうか……でもおれ、ちゃんと牧と部長に好かれたい。だからおれ、ホントに台本無視っていうか、テキトーなことばっかやっちゃうんだけど」

 

……と、田中圭は述べています(すみません、一字一句正しくはないのですが)。ええ、わたしもシナリオを熟読してるので(してるんかい)よく知ってます。シナリオだけ読むと、春田創一というのは、鈍感で、無神経で、自分勝手で、何もわかってない、精神年齢17歳くらいの(実年齢は33歳)ポンコツ男子です。なのにそれを、あそこまで愛すべき存在にしてしまう田中圭のすごさ。

 

「だって、部長は春田のために、30年も連れ添った、あんなステキな蝶子さんと離婚までするんだよ? それに説得力を持たせないといけないし」

 

田中圭のその決意と努力があらゆるシーンににじみ出ています。

 

たとえばわたしが好きなのは、黒澤部長(男性です)にどれだけ熱烈にアプローチされても、決して上司に対するリスペクトを失わないところ。第一話の中盤(病院シーン)以降、部長がどんなに春田に接近し、時にボディタッチをしてきても、決してそれを自分から振り払うことはしません。とくに第三話、蝶子と一緒に部長を尾行したシーン。蝶子に見られないよう、部長に握られた手をやんわりと離さざるをえなくなった時のあのしぐさと表情! さらに同じ場面、部長がトイレに行った隙に蝶子と一緒に逃げだすのですが、部長の背後でそっと会釈しながら実に申し訳なさそうに立ち去ります。しかも、カメラに映ってるかどうか微妙な位置なのに! もう、田中圭っ!! 部長と並んでベンチに座る時の背筋の伸ばし方と脚の揃え方、部長の部屋に呼ばれた時のかしこまった態度もステキです。

 

さらに、これまたすごく好きなのは、第七話で牧と一緒に地域のマンションに挨拶回りをする時、管理人らしい女性に「としえさんも元気でねー」と言いながら、その「としえさん」のほうに足を一歩踏みだすところ。他人との距離の取り方が絶妙です。あれはまさに、他人に好かれる距離感を直感で知っている人のしぐさ。わたしは他人との距離の取り方が下手くそで、でも仕事柄うまくなりたいと願っているため、この手のことにはわりと敏感だと思うのですが、こんなにうまい人(とくに男性で)はあまり見たことがないです。これ、田中圭はどこまで計算してやってるんでしょう? それとも春田に完全に憑依してるから自然にそうなるの? すごすぎる。

 

田中圭の演技の中毒性の高さについては他にも山ほどあるのですが、きりがないのでこのへんにしておきます。

 

 

では、次の毒性物質を。

 

 

2)王道なのに革新的で、ファンタジックなのにリアル

 

本作は「ラブストーリーの王道」を「男同士」が真摯に演じるドラマです。

 

では、どうして「王道」なのでしょうか。まず、「消えた恋人を主人公は必ず見つけだす」というお定まりのパターン。ええ、牧が去っても春田は探し回ってちゃんと見つけだすんですね。「あの大都会でいなくなったら見つからないでしょ、フツー」と思うのですが、絶対に見つかる。これ、ラブストーリーの「王道」でしょう。

 

もう一つが、「見ちゃう率100%」。これは田中圭自身が言っていたことですが、牧凌太という人は、見てはいけない聞いてはいけないことを必ず「たまたま」見聞きしちゃうんですね。いつも「いや、なんで今そこを通りかかる?」というタイミングで。これもまたラブストーリーのお定まりパターン。実に「王道」です。

 

こうした「ラブストーリーの王道」要素に、登場人物たちのスラップスティック調のコミカルな演技が加わり、さらにその根底には「男同士の恋愛」という現代の日本社会においてはまだ革新的でチャレンジングとされる設定が横たわっています。これほど非現実的要素が満載なのに、決してファンタジーに陥らず、なぜか狂おしいほどのリアリティで観る人の胸を打つのです。まさに奇跡。そのキーパーソンは、やはり林遣都演じる牧凌太ではないでしょうか。田中圭が言うところの「切なさ担当」(第一話から最終話までずーーっと切ない!)のあの演技のリアリティが、この作品を上質なドラマに昇華させているような気がします。

 

このように、ファンタジーとリアルのバランスが絶妙であるために、噛めば噛むほど味わい深い、中毒性の高い作品になっているのです。

 

 

では、最後の毒性要素を。

 

 

3)意地悪や憎しみや差別や固定観念がない世界

 

「おっさんずラブ」の連続ドラマ版には「ゲイ」という言葉が一切出てきません(単発ドラマ版には出てくるのですが)。まるでそういう概念すら存在しないかのように。

 

登場人物たちはみな、春田や牧や部長の男同士の恋愛をあたたかく見守り、応援し、祝福します。誰一人として差別意識や固定観念を持っていません。また、牧と部長、牧とちず、春田と武川、春田とマロ、春田と蝶子、部長とマロといったライバル関係にある者同士も、決して相手を憎んだり、卑怯な手を使って出し抜いたりせず、正々堂々と向き合います。そしてたとえ恋に破れても、決して相手を恨んだり仕返しをしたりしません。むしろ、同情したり、励ましたりします(例:春田に牧の思いを伝える武川(←正直、武川が牧のことを一番理解してると思う)、牧を心配して追いかけるちず(←わたしが大好きなシーン)、部長と春田の姿を見て目頭をおさえるマロ(←ラストシーンの背景)、部長が振られる姿に号泣する蝶子など)。

 

ラブストーリーの起承転結というのは、身分違いや年齢差などを原因とした周囲の非難や中傷、あるいは、嫉妬にかられたライバルによる妨害や策略が軸になって展開されるのが「王道」だと思うのですが、本作にはそういう意味での「王道」は皆無です。

 

むしろ、本作でもっとも固定観念、というか変なこだわりを頑なに抱きつづけているのは、主人公である春田自身です。春田と牧の恋愛における障害は、周囲の非難でもライバルによる妨害でもなく(部長も武川もちずも決してふたりを「妨害」はしない)、春田自身の「同性に恋してしまった自分の心」を受け入れられないこだわりです。牧をもっとも苦しめるのは、元カレ(武川)でもライバルたち(部長とちず)でもなく、いつまでも揺れつづける春田の心です。

 

田中圭自身は、「春田は第一話からずっと牧を好きだったと思う」と言っています。なのに、自分の気持ちに気づかなかった。いや、きちんと自分の気持ちに向き合おうとしなかった。春田というのは本当に、マロとちずが言うように「超絶鈍感」で、部長が言うように「バカ」で、牧が言うように「何も見えてない」人。そんな春田をいかに「愛すべき存在」にするか、田中圭はそうとう考えて演技をしていたんだろうなあ、とつくづく感心します……と、再び「1)」に戻ってしまいましたが(苦笑)。

 

ともあれ、こんなにやさしくて温かい世界を見せられると、つい、このつらく厳しい現実(?)から背を向けて、その虚構の世界にどっぷりと浸かりつづけていたくなります。中毒性が高すぎます。

 

 

……というわけで、このままだと現実社会に適合できない人間になりそうなので、そろそろ卒業することをここに宣言します。

 

 

先日公開された劇場版が、わたしには今一つだったこともよいきっかけになるかもしれません。劇場版は、同じ「王道」でも「エンタメ映画の王道」といった感じで、悪者が設定されていたり、中途半端な(すみません)アクションシーンがあったりと、どうも違和感と不自然さがぬぐえませんでした。

 

 

今秋には連続ドラマ版のシーズン2が始まるそうですが、牧凌太(林遣都)は出演しないという噂も流れています。そうなると、パラレルワールドでの春田創一のまったく別のドラマが始まるのでしょうか。田中圭と林遣都のコンビネーションが絶妙だっただけにやや残念です。かといって、ふたりが続投して春田と牧の物語が続くのだとしたら、春田の心がもはや揺れていない今、今度のストーリーの起承転結はいったい何を軸に展開されるのでしょう。それもちょっと想像ができません。

 

 

 

……と言いつつ、わたしの予想をよい意味で裏切ってくれることを、心のどこかでそっと期待してもいるのですが。

 

 

アメブロに移ってから、お店に関する投稿をちっともしてないわたし……お店もきちんと毎日営業してます! よろしくお願いします!

 

 

 

写真は、本文には関係ないですが、先日オープンしたサクラマチクマモト。「おっさんずラブ 劇場版」もこの4階にある新しい映画館で観てきました。バスヘビーユーザーのわたしとしては、バスターミナルでさくっと映画が観れるのがすごく嬉しいです。

 

 

 

 

17年間ほど使いつづけてきたエスプレッソ用コーヒーミルがとうとう壊れてしまったので(右)、新しいのに買い換えました(左)。同じモデルのバージョンアップ版。粗さ設定と掃除がしやすくなりました。