鉛
猛烈に風が吹いてマサコは吹き飛ばされてしまいそうでした。吹き飛ばされなかったのは持っていたクマのぬいぐるみのおかげです。あのクマは中に鉛が仕込んであり、マサコを襲おうとする狼たちを殴り倒すのにいつも使っていたのでした。その鉛の重さがマサコを守ってくれたのです。
風がやんで、穏やかな日差しが戻ったとき、マサコはクマに言いました。
ありがとう、あなたのおかげよ。
クマはそれに答えて言いました。
よし、これであんたとの関係は対等だ。これからもビジネス関係を続けていきたいなら、条件を出そうじゃないか。
マサコは思いがけないクマの申し出に息をのみました。
いいか、これからは俺を放り投げるのはやめろ、俺で何かを拭くのはやめろ。俺を「ただのビジネスパートナー」と呼ぶのはやめろ。
それを聞いてマサコはにっこりとして言いました。
ビジネスパートナーでなくなるなら、あたしはあなたに何をしても平気よね。
そうしてマサコは、後ろの戸棚を開けました。戸棚の中にはたくさんのクマのぬいぐるみが整然と並んでいました。マサコは言いました。
この子たち全部、鉛が仕込んであるの。
廊下
廊下を歩いている。黒光りする廊下。ここは古いお寺かなにか?でもそれにしては廊下が狭すぎるわ。これじゃあ70センチもないじゃない。いえ60センチ、いや40センチだわ。そうじゃない、廊下がどんどん狭くなってる。このままでは、両側の壁に押しつぶされてしまう。ああ。でも待って。いくら手を伸ばしても、壁に手が触れない。どういうこと?壁がないの?ああどんどん廊下が狭くなってゆく。もう足の幅より狭い・・・・。でもこれって、どこかで見たことがある。そうだわ。綱渡りよ。私は今、細いロープの上を歩いているんだわ。
下が明るい。何かしら。きらきらとたくさんの光。微かに楽しそうな音楽も聞こえる。分かった。遊園地ね。夜の遊園地。そういえば、観覧車らしき光も見えるし、ジェットコースターらしきものもとぐろを巻いている。とすると、私は夜の遊園地のはるか上空に張られた細いロープで綱渡りしているのね。あ、下から拍手が聞こえる。私に向けての拍手?でもこんなに高い所にいる私が見えるのかしら。きっと違うわ。下で誰かが拍手喝采を浴びてるだけよ。
なんだろう、この感覚。こんな危ないところにひとりでいるのに全然平気。むしろ懐かしいくらい。いっそのこと、ちょっと駈け出してみようか。