幻化網タントラ 新訳


幻化網タントラ』は無上瑜伽(むじょうゆが)タントラに属し、父タントラに分類される。後期密教に特有の十忿怒尊を描く最古層のタントラであり、「瑜伽タントラ」である『真実摂経』(しんじつしょうきょう。初会金剛頂経(しょえこんごうちょうきょう))から、「無上瑜伽タントラ」の嚆矢である『秘密集会タントラ(ひみつしゅうえタントラ)への、すなわち「中期密教」から「後期密教」へと至る過程の、中間的・過渡的・橋渡し的なタントラとみなされている。

ただし、このタントラを「瑜伽タントラ」とするのか「無上瑜伽タントラ」とするのか、また成立時期を『秘密集会タントラ』の前とするのか後とするのか、その位置付けを巡って異論・論争もある。



原典となる資料には、チベット訳と漢訳のテキストのみが存在し、サンスクリットの原本はまだ発見されていない。チベット訳としては、チベット大蔵経リンチェン・サンポ訳『幻化網なるタントラ王』(東北:№466)が収録されている。漢訳には代の法謙による『仏説瑜伽大教王経』(大正蔵:№890)、ないしは『仏説幻化網大瑜伽教十忿怒明王観想儀軌経』(大正蔵:№891)がある。