昨年11/11付『プロフェッショナル仕事の流儀・蔵出しトークスペシャル』。宮崎駿氏、柳家小三治氏、平井伯昌氏の3人の収録に入りきらなかった未公開分を放送したものですが、この中の、宮崎駿氏の部分が印象的で、ふとHDDに残しておいたのを見返していました。
〈ポニョの主人公〉
ポニョというのは題名にもなってますけど、主人公は宗介なんです。
地味ですけど、かなめとして宗介が貫かないと、おさまりようがない世界なんです。同時に、宗介というのは、いわゆるいい子で片づけられかねない所を持っている。いい子というのは非常に問題があるということをさんざん言われてきた時代。だけど、それを越えて、なおかつまっすぐな子はいるんだということを、お客さんが納得して受け入れてくれるかどうかが、自分にとっては大きな賭けのようなものですね。
〈半径3メートル以内で仕事をする〉
空から見て東京を見たら、絶望感しか湧かないですよ。それよりも、目の前の小さい子どもとか、そういう方が心が落ち着くことはまちがいないですね。そんなに探し回らなくても、実は身の回りにいっぱい風景はあるんですよね。見落としてるだけで。
5歳児とはどういうものかわからないから、近所の保育園のネットの前に立ってたら、ヒゲ生えてて怪しいから、子どもたちが集まってくるんですよ。「おじいちゃんいくつ?」とかね。よくしゃべるんですよね、女の子たちは。すごいですね、5才というのは。主人公にして大丈夫だと思いました。これだけしゃべるんなら。
〈子どもにしてやれること〉
子どもの未来は…ってよく言う人がいるでしょ。子どもの未来はつまんない大人になることなんですよ。今この時期に、何を見てどんな体験ができるかが大切。ぼくらは時間と場所を提供することは出来る。それしかないんです。できるときは、その瞬間にやらなくちゃいけない。それ逃すとできないんですよ。
ぼくの知り合いの子が、一年生の時に遊びに来たとき、帰るのいやだってぐずったんです。僕のポロ車に乗せて駅まで送ってあげるからって遠回りして。ぐずぐず言ってるんですよね。「ボロ車」とかなんとか悪態を〈笑〉。走りながら屋根バーッと開けてあげようかと思って。そしたら雨が降ってきたんですよ。ばらばらと。一回開けると閉めるの大変なんですよ。一瞬ためらってたら駅に着いちゃった。
それでしまったというのを、その後ずっと抱えて。自分がエンタティナーとか言いながら、あのチャンスに窓を開けられなくて、車の中が濡れるとか考えた自分が情けなくて。案の定ないですよ、もう。1年生の彼に窓を開けてあげるチャンスは2度と。
〈カリオストロの城にまつわること〉
(完成度は高いのに、映画公開当時は人気が出なかったことについて)意外ではなかったです。あれは、ルパン三世のテレビシリーズと、真っ向から背中向けている映画なんですね。
ルパンていうのは、陽気でお調子者で、日があたっている部分だけだったらいやだという思いが、自分にあったんです。翳の部分をちゃんと踏まえないといやだという。人の前ではおちゃらけているけれど、それだけじゃないんだという。それをやりたいじゃんって話してたんです。
僕がショックだったのは、ラストをどう締めくくるかというのを、最初からのプランがあったんですよ。それをやりたさにA,B,C,Dとやっていったら、これ以上枚数塗れないって突きつけられたんです。公開まで間に合わないと。その結果、絵コンテを完全に捨て去らないといけない。最善の策としてじゃなく、スケジュールのために話を作り替えざるを得なかったんです。
これはダメージが残るんですよね。客が入ろうがはいるまいがどうでもいいっていうくらいね。とことんエンタティメントとして首尾一貫してね、このラストのためにこの映画はあったんだというヤツを作りたいじゃないですか。そこでブレーキをかけなくちゃいけなかったという。
それは、ものすごい挫折感でした。映画館にお客が入ってなくて、ほっとするくらいでした。
それから回復するのはほんとに、何年もかかりましたね。何年もですよ。
〈若い人に向けて〉
つまらない仕事で、人に認められることですよ。自分のアイディアをふんだんに注ぎ込んで。
僕、若い頃よく言われました。「そんなにアイディア出してたら、枯れちゃうよ。」って。20代です。何にも自分の名前が残らないところでも、楽しみながらやりました。試行錯誤して、とんでもない失敗も何度もやりましたけど。知らん顔して。(誰かが)見ててくれないはずはないですよね。何度でもスタートは切れるし。その代り、自分の自我を満足させるようなものを作っちゃダメです。人を楽しませるようなものを作らないと。
この『プロフェッショナル』という番組、有名無名のひとかどの人物たちと、見も知らぬいろいろな職業に出会えて、うっかり知らないで過ごしていたことが悔やまれるほど、丁寧に作られた番組で、毎回楽しみにしています。
先日の夕方NHKの何かの番組で、宮崎駿さんがインタビューされていました。
新作は芥川龍之介を描きたいという珍しい話。シニカルな写真ばかり出まわっているけど、とてもいい青年なので、元気な龍之介を描きたいのだとか。面白そう。
売れセンのものを作ろうというのは、自分をおとしめることだとも言っていました。自分が描きたいもの、いいと思うものを創るべきだと。
その話を聞いていて、昨年のカリオストロのエピソードを思い出し、彼の創作に対するこだわりと、作品に対する愛情がなみなみならぬものだと、改めて感じました。作品の持つ魅力の源が、身内に溢れていて、いくらでも話を聴いていたいような、そんな感じのする人柄です。