ちりとてちん 最終回 | 甲羅に似せて

甲羅に似せて

蟹は甲羅に似せて穴を掘るそうです。私も日々の想いを
蟹が穴を掘るように綴っていけたら・・・。

あまりに想いが強いと、人は言葉を失うものなんですね。

何度も何度も録画を繰り返し最終回を観て、今朝は青空落語会の回を何度も見返していました。

もう本当に終わりなんだというのが、うそのようです。


もう臨月で小浜に帰って来ている喜代美ちゃんは、はちきれそうなお腹で、産むのはどれくらい痛いかと「どねしよ~。」と弱音を吐いています。

そんな彼女に、いつになく強い口調でダメだしをする順ちゃん。

「しっかりしい!思うようにならん生き物抱えて、毎日やっていかなならんようになったら、そんなこと忘れてしまう。自分の子だけでなく、草々さんの弟子達や、ひぐらし亭に出入りする落語家さんのおかあちゃんになると覚悟したなら、どねしようは禁止や。」


そんなに厳しく言うこともないと思うのですが、それくらいの覚悟がないと、生まれてからが大変だという、順ちゃんの経験から出た言葉なのでしょう。

本当に、子どもが物心つくまでは、待ったなしで夜も寝られず、よくあの時期を乗り切ったなあと、私も当時を思い出して感慨深いです。


魚屋食堂では、順ちゃんの両親と友春さんの両親が仲良く焼き鯖定食を食べています。小学校から帰ってきた双子ちゃんは、一方は鯖を焼くのに興味津々、もう一方は塗り箸に興味があるようです。それぞれの跡継ぎができたようですね。


ひぐらし亭では、小草若さんの草若襲名の高座が開かれています。四代目なんですね。上から観ていた草原さん、草々さん、四草さんの後ろから、「やっとまた、草寂に逢えたなあ。」と言う鞍馬会長。

この人、好きです。かつては、いじわるな頑固親父と思っていましたが、落語を愛する、なくてはならない人なんだと思えるようになりました。


襲名披露に立ち会えず、淋しそうな喜代美ちゃん。そこに奈津子さんと小次郎さんが来てくれました。

『徒然亭若狭~そのお母ちゃんへの軌跡~』と、パソコンの画面に出ていましたが、この本は、後日出版されたものの、あまり売れずに、小次郎おじさんが楽しげに道端で叩き売っていたというナレーションに、妙にリアリティを感じて、笑ってしまいました。


寝床では、小草若改め草若さんの襲名披露パーティーをやっています。


草若さんと清海ちゃんはいい雰囲気で話していますが、その後結婚までは至らないというナレーション。確かに落語家と製作所の社長では男が2人いるようで、家庭を築くのは難しいかもしれませんね。

草若さんが着ていたスーツ、とてもおしゃれで見た事のないデザインでした。細身の彼の独特のファッションやアクセサリーは、とても似合っていていつも楽しみだったなあと思い出しました。


草原さんは、長年の功績を讃えられて、大阪府から名誉ある賞を与えられたそうです。噛み癖のために賞に恵まれなかった草原さんですが、今では上方落語を支える存在になっていたんですね。

それを奥さんのお陰と言い、緑さんと人前もはばからず抱き合って喜ぶ姿は相変わらずで、それをうれしそうに見つめる颯太くんもさすが息子です。


そこへ突然入ってきた子連れのちょっと小太りのきつそうなご婦人。

「あなたの子どもです。」

と言い捨てて、大きなため息をひとつ。子どもを四草さんの方へ押しやって、後ずさりしながら出て行ってしまいます。


え~~~っっ!???


なんという展開。かつてつきあっていた女性が、男好きのするようなタイプでなく、不幸を恨むような、四草さんの慰めの算段に騙されやすそうなタイプだったことが、これまたリアリティ追求だなあと思ったのと、連れてきた男の子の、繊細そうで四草さんにそっくりな顔立ちに、すんなり受け入れて膝に座らせ、九官鳥の平兵衛を紹介した様子に、全く違和感を感じなかったことに、心の底から驚きました。

「迷い込んできたものはしょうがない。」と、何の疑問も持たずにこの子を引き取って育て上げたというナレーションを聞いて、四草さんの母親に愛されなかった生い立ちや、九官鳥の平兵衛との出会いを思い出し、その心根の優しさに、心を打ち抜かれました。


草々さんは相変わらず落語に精進し、弟子入りが後を絶ちません。小草々さんは弟弟子相手に、相変わらずホラを吹いてけむに巻いています。


正平君は、勝山の恐竜博物館へ転勤して、後に留学して学芸員の資格を取りました。


小浜では、正典さんは塗り箸を作りながら、製作所で若い人たちに塗り箸を教えています。小梅さんも元気で、奈津子さんと小次郎さんもいます。お母ちゃんは相変わらずで、何か匂いを嗅ぐように鼻をひくひくさせて、喜代美ちゃんに、「あと2~3日で生まれるから、準備しとき。」と、預言者のように言います。

お母ちゃんの予言、経験のなせる技か、勘の良さなのか、昔から不思議と当たりますよね。


仕事場でまた「愛宕山」のカセットテープを聴く喜代美ちゃん。そばには、小学校時代、おかあちゃんにもらった幸運のネコの巾着が。そこへ入ってきた草々さんは、「また聴いてるのか。そんなに好きなら止めなければよかったのに。」と言いながらも、「子どもが生まれたら、子育てとひぐらし亭のお母ちゃんとしてがんばってくれ。師匠の落語を一緒に伝えて行こう。」と喜代美ちゃんのおなかをさすりながら話しかけます。


急に産気づいて苦しみ出す喜代美ちゃん。「救急車~!」と、ひっくり返った声で叫びながら走り出す草々さん。


分娩室に運ばれて、ぴしゃりと閉められたドアのこちら側で、草々さんは不安そうに立ち尽くします。


「野辺へ出て参りますと、春先の事で。空には雲雀がぴーちくぱーちくさえずって、下は蓮華たんぽぽの花盛り。陽炎がこう燃え立ちまして、遠山にはすぅーっと霞の帯を引いたよう、麦が青々と伸びて菜種の花が彩っていようかという本陽気。やかましく言うてやって参ります。その道中の陽気なこと。」


「愛宕山」の一節を、喜代美ちゃんに語りかけるように言いながら、顔をくしゃくしゃにして泣いている、草々さんの後ろ側、廊下の窓から燦々と日が差しています。


孤独な少年時代、落語だけを拠り所に、誰にも迷惑をかけまいとがんばってきた草々さん。喜代美ちゃんとともに、新しくできる家族を思って号泣する草々さんの希望に満ちた心持ちが伝わってきて、観ているこちらも、心を揺さぶられるようで、一緒に号泣してしまいました。


出産を終えて優しく微笑む喜代美ちゃん。またいつかお会いしましょうというナレーションと共に、物語は幕を閉じました。


女性落語家という珍しい存在を追っていくうちに、家族とか夢とか、母親というものについてなど、身近な事について、いろいろ考えさせられ、教えられる物語でした。


登場人物の描き方も、一人として傍観者がいなくて、一人一人が丁寧に描かれていたので、毎日観ることで、その作品世界が、自分の生きているもうひとつの世界のように、いとおしく親しみのある空間と人になっていて、この世界からこの日限りで抜け出さなくてはいけないのが、なんだか惜しくてたまりません。


喜代美ちゃんが落語をやめてしまったことが、私はとても残念なのですが、家族の世話が生きがいの、おかあちゃんの世代と違って、今は女性も自己実現を目指す時代なので、ひょっとしたら、子育てを終えた後、また落語に戻ることもあるんじゃないかなと、思ったりします。


「愛宕山」の台詞を思わず書き出してしまいましたが、草若師匠の語り口が、やっぱり一番しっくり来るなあと思い、草原さんや喜代美ちゃんのも聴いて、最後の草々さんのを聴くと、語る人によって同じ台詞がこんなに変わってくるんだと、不思議な感じがしました。


4人の兄弟子達は皆それぞれ魅力的で、最後に急激にはまったのが、四草さんでした。虎ノ介さんの魅力もあるし、四草さんの奥行きのあるキャラクターを作りこんだ、作り手の手柄もあると思います。


草若師匠が亡くなったときはどうなる事かと思った徒然亭が、こんな形でしっかり落語をやっていく基盤を、みんなで協力して作り上げた事にも感動しました。


語りつくせないほど、後から感想が溢れてきますが、このレビューも最終回ということで、そろそろ閉めさせていただきます。


読みにくいこんな文章を読んでくださった方がいらっしゃいましたら、ありがとうございますと心から申し上げます。