ちりとてちん 2/11 | 甲羅に似せて

甲羅に似せて

蟹は甲羅に似せて穴を掘るそうです。私も日々の想いを
蟹が穴を掘るように綴っていけたら・・・。

もう、師匠には落語会をする体力が残ってないのでは?と思っていたら、「地獄八景」をやり終えて苦しそうに顔をゆがめながら、「天狗座の落語会では、この地獄八景を兄弟子4人で手分けしてやってくれ。前座は若狭の創作落語や。」と言い出します。「ご指導よろしくお願いします。」と草原さん、草々さん、四草さんが頭を下げる中、小草若さんだけが、自信なさげにちょっと遅れて無言で頭を下げます。


 さっそく、病室での師匠の指導が始まりました。四草さんには「ええかっこしいの落語や。もっとあほらしゅうできんか。」、小草若さんには「テンポ悪いなあ。うまくやろうと自分の中にないものをやろうとしてもあかんで。」と厳しいダメだしです。逆に、草々さんはほめられて、「なんか言って下さい。」とくってかかります。

 ずっと斜め後ろで一緒に口パクで稽古に参加していた喜代美ちゃん、見ているほうは鬱陶しくないかなと思っていたら、最後追っ払われていましたね。


 師匠のダメだし、思い出して考えるとポイントを押さえているなあと感心します。プライドが高くてバカになれない四草さん。自分の落語がまだ掴めてない小草若さん。完璧主義の草々さんにはほめて伸ばす。草原さんは本番で噛まなければ問題ないですし。


 うちに帰っても稽古している草々さんの横で、「みんな稽古つけてもらっていいなあ。」と大声で独り言を言って「うるさい。」と草々さんに怒られる喜代美ちゃん。創作落語作りに身が入らないようです。草若師匠に出会うきっかけになった落語のテープの事とともに、A子とB子の名前がついた由来を草々さんに話しているうちに、喜代美ちゃんの頭の中にいろいろな思い出が蘇ってきます。


 同姓同名の清海と区別するために、A子とB子に呼び分けたらと言うクラスメイトに、なんでもできる清海に気後れして、自分から「B子でいいよ。」と言ってしまい、その後長らく後悔した事。順ちゃんに「天災と思ってあきらめなれ。」と明るく言われて余計に落ち込み、おじいちゃんが聞いていた面白いテープが無性に聴きたくなり、おじいちゃんの仕事場に行って、くすくす笑いながら聴いていると、「落語って言うんや。」と教えてもらいます。


 そうっと落語を聴きにきて、楽しそうに笑っている孫の様子を見て、おじいちゃんはどんなにいとおしくかわいく思ったことでしょうね。口に出さなくても、表情の中に喜代美ちゃんへの愛情があふれていて、それだけ見てもうるうるしてしまいました。


 それを聞いて草々さんは、「よかったなあ。」と喜代美ちゃんの頭を撫でて、「落ち込んでいるからこそお前の中にすーっと落語が入ってきたんや。くよくよ悩んで落ち込む自分が嫌だったかもしれないけど、だからこそ、師匠に、落語に出会えたんや。」と言ってくれました。


 「落語になるんとちゃうか。お前の歩いてきた道。」という草々さんの言葉に「えっ。」と驚く喜代美ちゃん。


 思えば、自分を変えたいと大阪に出てきて、徒然亭の庭先で、師匠がつぶやいていた「愛宕山」が、おじいちゃんのテープに入っていたのと同じネタだったというののが、師匠との出会いだったんですね。振り返れば、創作落語のネタの宝庫です。さて、喜代美ちゃんはこれをどんな風にひとつにつなげてみせるのでしょうか。


 落語のテープには、ただの音声だけじゃなくて、おじいちゃんと喜代美ちゃんのいろんな想いが入っているから、その想いが草若師匠に届いたのかもしれませんね。縁というのはほんとに不思議なものです。その人にまつわる何かが、縁を引き寄せるという事が、現実にもあるように思います。偶然のようでいて、偶然でないなにかが。


 でも、喜代美ちゃんのエピソードを語るのに、忘れてはならないA子のことが、まだわからないままです。


 もう、彼女は過去の人?・・・にはなってほしくないなあ。