第一志望校が決まってからというもの、ムスメはひたすらその大学の赤本を解き続けた


普通なら遅くとも4カ月前から始める対策を、ムスメはたった3週間あまりでやり切らねばならない


カレンダーを見ても、残された日数はどう切り取っても少ない


引き返す余地はなく、時間だけが静かに削られていく


それでもムスメは何も言わず、淡々と机に向かっていた


私大のマークシート方式なら答えは明快で、「いけそう」「厳しそう」と、ある程度の手応えは残る


現在地を確認しながら進める試験だ


けれど国立大学の二次試験はすべてが記述


過去問を解いても、そこに確かな「採点結果」を自分では出せない


英語と数学の採点だけは塾の先生にお願いしたものの、どこまで通用しているのか分からないまま進むしかなかった


何より不安だったのは、この大学の冠模試を一度も受けていないという事実だ


「今、受験者層の中でどこに立っているのか」


それがまったく見えない


ムスメが高3で受けてきた東大模試では判定はC〜Dばかり


だいたい上位30%台あたりが定位置であった


数字だけを見れば、決して悪くはない、だが現役合格できるかはかなり厳しいライン


新たな第一志望の大学は、国語ナシで文系科目は英語のみ

 

その英語が占める割合は全体の2~3割ほど

 

つまりは理系科目が7~8割も占める

 

東大模試はムスメの苦手な文系科目が45%、得意な理系科目が55%と文理割合が約半々の割合であったので、その東大志望者の中での立ち位置が新な大学での指標にもならなかった

 

 


サピックス時代は、模試とクラス分けテストの連続だった


「持ち偏差値」があり、成績別のクラスがあり、偏差値表を見れば受験者層の雰囲気が自然と掴めた


「あ、この学校はこの辺の層が集まるのね」

 

そんな感覚が当たり前のようにあった


でも、二次試験勝負の国立大学ではそれが全く通用しない


特にマーク模試の判定は正直なところアテにはならなかった


冠模試だけが、「同じ大学を目指している人たちの中で今どこにいるのか」を確認できるほぼ唯一の手段だった


ムスメに可能性はあるのか


それとも、最初からかすりもしない戦いなのか


そんな時、ふと目に留まったのが、Z会の直前予想演習のお知らせだった


しかも、ムスメの新たな第一志望校が対象校に入っている


締切は目前

 

「今さら何をしても…」と思う一方で、「それでも、何もしないよりは」という気持ちも確かにあった


結果的に最終締切ギリギリで申し込んだ


これがムスメにとって初めて受ける「本番仕様」のテストだった


出願はすでに終わっている


この結果で何かが変わるわけではない


それでも、少なくとも現実を知ることはできる


良くも悪くも心の準備だけはしておこう、と思った


後になってムスメは、大学入学後に知り合った人たちに、「冠模試も一度も受けていなくて、過去問対策も3週間しかしていなかった」と話すと、かなり驚かれるようだ


それほど少数派らしく、「それは再現性がないよね・・・」(心の声「無謀だよね・・・」)と苦笑されることも多いらしい


確かに決して誰にでも勧められる方法ではない


運やタイミング、本人の資質に左右される部分も大きい


それでも、ムスメの周囲では冠模試でD判定を取りながら合格を掴んだ人がいるのも、また事実だ


最後に残るのは、結局のところ----

「自分を信じて、最後までやり切れるかどうか」


全力でやり切った後には、やり切った人のみが味わえる『特別な達成感』が必ず訪れるはずだ

 

合否に関わらず、それを味わえた人こそが、本物の受験の勝者ではないだろうか