第一志望大学への灯りがフッと消えてしまった
その瞬間、時間が止まったような感覚になった
事故採点を終え、結果を学校に報告したあとのムスメは、完全に力を失っていた
長い時間お風呂に浸かり、出てきたかと思えば、現実から逃げるようにただ眠る
泣きもせず、怒りもせず、何も語らない
それが逆にいちばん辛かった
「この先どうするつっもりなの?」
意を決して聞いた私に、ムスメはぽつりとこう言った
「もう受験なんてどうだっていい。好きなことだけやっていたい。」
胸の奥がざわついた
親として聞き流すことはできなかった
「それなら最初から専門学校でもよかったじゃない。
大学生になりたかったんじゃないの?」
すると返ってきた言葉は、想像以上に冷めていた
「大学生になりたかったのは、堂々と“趣味をやっていても許される身分”だから。
勉強はもともと嫌いだし、学びたいことも特にない。
私立理系は学費が高いから国公立って決めてた。
それが無理なら大学なんて行きたくない。
でも、頑張って中学受験をして6年間進学校に行ったのだから、最終学歴が専門学校も嫌だし、かといって高卒で働くのも嫌。
もうひたすら趣味だけやっていたい。」
……あまりにも正直で、あまりにも自分勝手で、苦笑いしかなかった
志望校を失って、残された時間はたった一ヶ月
それでも一つだけ、はっきりしていた
東大への未練は、もう跡形もなく完全になくなっていたのだ
共通テストの結果でリサーチを探ると、旧帝大クラスはだいたいC〜D判定
その下の大学群(TOCKY)ではA〜C判定が並んだ
過去問も一回もやっていない、冠模試も受けたことのない大学群
受験者層の中での立ち位置や過去問との相性が全く分からない
未知数だらけで、正直「特攻」に近い
でも私は思った
残り1ヶ月をやり切るには、「ここに行きたい」という強い気持ちがなければ無理だ、と
今のムスメは、「どこでもいい」
そんな中途半端な志では、最後まで走りきれない
私は静かに伝えた
「大学は学生でいられる最後の貴重な時間だよ。
失敗しても許されて、いろんな経験ができる人生で最後のチャンス。
それを自ら全部手放してもいいの?」
ムスメは不貞腐れたように言った
「別に・・・。どーでもいい。」
それでも私は、引き下がれなかった
「今ここで踏ん張ったら、未来が変わるかもしれない。
まだ時間はあるよ。今ここで全力でやり抜かないと一生後悔するよ。どうする?」
沈黙のあと、ムスメは小さな声で言った
「……私は、友達がほしい」
一瞬、言葉の意味が分からなかった
「え?」
ムスメは、ゆっくり話し始めた
「小学校の頃から、ずっと友達が欲しかった。
自分と似たタイプのね。
だから友達が欲しくて中学受験も頑張った。
中高では友達には恵まれたけど、自分みたいな子はいなかった。
いつもどこか孤独だった。
できることなら男子校に行きたかったくらい。
普段は適当で趣味ばかりやってるのに、頭が異常にいいタイプの友達が欲しかった。」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が「きゅっ」と締めつけられた
ムスメは、勉強のために大学に行きたいわけじゃなかった
偏差値のためでも肩書きのためでもない
「同じ世界を同じ目線で語り合える誰か」に出会いたかっただけなのだ
私は言った
「じゃあ、その人たちがいそうな場所に行けばいい。
今から取り組めばまだチャンスは残ってるよ。」
ムスメの目にかすかに光が戻った
完全には消えていなかった闘志
大学受験は点数の勝負だけじゃない
「どこで」「誰と」「どう生きたいか」を探す時間なのだと、焼け野原に立って初めて気づいたのだ
そしてその中で見つけたのが、ムスメにとっての
**「一番欲しかったもの」**だった。