お色直しのドレスを決めたあと 
ブーケと卓上花のサンプルを見ながら
私の心はもうそこにはなかった

予定の時間をおしている
このあと約束があると伝えていたが
仕事の電話が入って中座したまま 
なかなか戻らない婚約者に苛立ちはじめていた


「悪い悪い、もう大丈夫だから」


「ううん
もう決まったから今日はここまでで良いかな?」

「料理はどうするの?」

「だからー、ブライダルフェアの時で良いよね、って言ったじゃない」

「そうか、そうだったっけ」

「ごめん、私もう行かないと」

「そうだったね 送ろうか?」

「地下鉄の方が時間が読めるからいいわ」


地下駐車場まで降りて婚約者を見送ったあと、急いでエレベーターのボタンを押した
約束の時間に間に合いそうもない

地下鉄のホームでLINEを入れたあと 
がらがらの車内の隅でコンパクトを開き口紅が落ちていないか確かめた


5つ目の駅でおりて
M3出口の階段をかけ上がると
すぐにホテルの入り口が見えた


LINEの画面で部屋番号をもう一度確認してからエレベーターで6階まで上がり、607号室のチャイムを鳴らした


開いたドアの中から
男の腕が伸びてくる

つかんだ手首を強引に引き寄せられ
ゆっくり閉じていくドアの枠の中で二人の体が重なった



大学のゼミで知り合い
私たちはクラス公認のカップルだった
けれど彼は
サークルやバイト先で常に
女性関係の噂が絶えなかった

彼の遊び相手から
つきまといや嫌がらせを受けたこともある

激しい喧嘩を繰り返し
彼の態度に何度も惑わされたすえ
遊び相手のひとりが妊娠したという噂に
自分のなかで完全にブレーカーが落ちた

卒業後は
共通の友人との関わりを断ち
黒歴史として葬り去った





それなのに…

二年間 温めた社内恋愛を
ようやく成就させた今になって

なぜ再び
出会ってしまったのだろう…
あんなに傷つけあって
やっと…やっと別れたのに


自分のからだの中の
細胞の99%が拒絶しているのに
たった1%が彼を受け入れてしまう



婚約者と

昔の男と…

交互に抱かれながら
地獄のような責め苦に
なぜNOが言えないの…





乱れた髪を直していると
ベッドの脇に落ちていた
式場のパンフレットを
拾う男の姿が鏡にうつった


興味を示すことなくベッドの上に放ると
背後から近づいて
今着たばかりのワンピースの胸元から手を入れて首筋にキスをした


「ダスティンホフマンになるのも悪くない」

「やめてよ
私は一緒に逃げたりしないから ただのピエロになるわよ」


再びベッドに押し倒され
たくしあげられ あらわになった
太ももの間に男の頭が沈んでいく



さっきからバックの中で
繰り返し震動を続ける
スマホのLEDが

薄暗い部屋の中で

私の中の1%と


哀しく連動している