第十一話 ランデブーラウンジ


帝国ホテル ランデブーラウンジ
「光の壁」前の席でオリジナルリーフティをすすりながら仲介役の婦人が席をはずすのを待って 

バッグからピアニッシモ・ルーシアを取り出しテーブルに置いた



「よろしいですか」

「ええ かまいませんよ」

週末になると恭子さんは 性懲りもなく
見合いをセッティングする


クローゼットの中から
着ていく服を恭子さん自ら選び
時には新調してくれることもある
初めはよほど私を追い出したいのかと勘ぐっていたが
良家と縁戚になり二人目の子供が生まれたら
杜川の家に養子にもらい受けようと考えているのだと あるとき本人から聞かされた



果たして
私の事をなんて説明しているのだろう?
婿養子が外に生ませた子に
どんな良縁を画策しているんだか…



「見合いは気乗りしませんか?」

「はい?」

「こういう席であえて煙草を吸うあたりがね」

「お見合いは自分の意志ではありませんから」

「なるほど
僕は煙草を吸う女性を見てもドン引きしませんよ」

「急いでいるんですか?結婚」

「いや でも、縁があればすぐにでも」

「お見合いは何度めなんですか」

「杜川さんが二人めです」

「たくさんお会いになった方が良いわ 針生さんなら選べますよ」

「じゃあ 決めました、結婚しましょう」

「ちょっと…」

「こんな堅苦しい所は早く出ましょう」

「待ってください 私は何も…」

「さぁ、早く」



まだいくらも吸っていない煙草をもみ消す間に
男は会計を済ませ大股でロビーを横切ると
ドアマンに手をあげて
私を待たずにタクシーに乗り込んだ



「私の都合くらい聞いてください」

「あー、運転手さん 西新宿ね 角筈
ほら 早く乗って」

心のなかで舌打ちして乱暴にシートに座った

「僕は恋愛は閃き型なんです まぁほぼ失敗したことがない」

「たぶん 初めてのパターンになりますよ」

「楽しみだ」


なんて強引な人だろう
何でも思い通りに生きてきたとでも言うつもりなの?



右折レーンの最後尾で、オレンジ色に点滅するウィンカーをぼんやり見つめた 
何度めで渡れるだろうと考えながら
ルームミラーのなかで時々 運転手と目があった


あまたの人間模様を見てきた運転手に
自分たちはどんな間柄に見えるのだろう…

右折の遠心力に揺れる車内でシートの上に置いた
指が重なった
さりげなく引っ込めようとして不意につかまれた

無言で抗議するように視線を投げると
男は正面を向いたままこう言った



「僕はね

愛人の子なんですよ」