第六話 夜明け


始発が動き始める時間になった
ソファに横になったまま
うつらうつらとする私の前でマデリンは
するりとワンピースを被ると 
開いたままの背中をこちらに向けた
その背中にキスをしてファスナーを上げてやると
マデリンは散らかったテーブルの上を片づけ始めた


「そのままでいいのよ」



自分も素早く服を着て 忘れ物はないか
テーブルとソファの上を確かめると
マデリンの手首をつかんで部屋を後にした



一時間くらいは寝ただろうか…
こめかみの辺りがズキズキと痛む

メインダイニングは照明が落とされ
エントランスには会計を待つ客がもう一組いた

「沙弓さん、コーヒーはいかがですか」

カウンターのなかでグラスを洗う手を止めて
身を乗り出すギャルソンに

「健ちゃん ミネラルウォーターをもらえるかな」

「今、お持ちします」


清算を済ませている間に、パントリーから持ち出したミネラルウォーターのペットボトルをマデリンに手渡し入り口の扉を大きく開いてギャルソンは定位置についた



「ありがとうございました
またのご来店をお待ちしております」

美しく腰を折るギャルソンの前を マデリンの体に手を回して引き寄せながら歩いた


「健ちゃん、いつもありがとう またね」

つかの間 笑顔を交わし
まだ明けきらない街の中へ吸い込まれて行く



夕方には店に戻るというマデリンを
目黒の家に連れて帰った
恭子さんは神奈川のどこか山の中へゴルフに行くと言っていたから朝は早いはずだ
地下鉄はいくらも乗らないが タクシーを使うと目立つので最寄り駅から歩いた

車庫に恭子さんの車がないことを確かめ
勝手口に回り 食器を洗う水の音を確かめて
小さくドアをノックした

「戻られましたか?」


「ただいま お友だちも一緒なの」

家政婦は後ろに控える女性に笑顔で

「いらっしゃいまし」

と一礼すると

「お風呂でございますね」

「うん ローブを二つお願いね パパは?」

「まだお休みです」

「じゃあ朝食は下で食べるから」

「かしこまりました」

キッチンをぬけると嬉しくて小走りになった
マデリンが慌てて追いかけてくる

笑い声が上がる

恭子さんがいないと家の主人は自分なのだと感じる



バスタブに湯を入れながら
とっておきのバスジェルを流し込む
突っ立ったままのマデリンの服を強引に脱がせ 
力一杯抱きしめた

「マデリン…可愛いひと」



手を引いてバスタブの中に入る
たっぷりの泡があとからあとから生まれてくる

抱きあいながら湯のなかに沈みこんで
泡まみれになってはしゃいだ
大声で笑うマデリンを見ていたら
なんだか泣きたくなった

背中に回って抱きしめ

肩を…甘く噛んだ