第四話 マデリン


店のママとおぼしき女に諭吉を1枚握らせ

「マデリンを連れて出るわ 足りない分はパパにもらって」

小山課長に向かって顎をしゃくると
女はニヤリと歯茎を見せて笑い

「オーケー」

と煙草を挟んだ指で合図した


「マデリン 出よう」

キョトンとするマデリンを急かし 控え室に荷物を取りに行かせると 私は先に店を出た


地下鉄で六本木に出て
芋洗坂を下り
個室のあるイタリアンに入った
ここは朝まで営業している

「いらっしゃいませ 沙弓さん こんばんは」

「健ちゃん、あそこ 空いてるかな」

「10分でスタンバイします 
カウンターでお待ちください」

店を出てからマデリンはほとんどしゃべらない

改めてマデリンの全身を眺める
中国人の父親とフィリピン人の母親をもつ
マデリンは、腕と脚がすらりと長く腰の位置が高い、中国人に特徴的な体つきをしている
小顔の中にぽってりとした肉感のある愛らしい唇が
セクシーと幼さを競わせているようだ

店で聞いた話では
母親はセブ島の裕福な家庭の生まれで 
父親は金融関係の仕事をしていたが
マデリンが10歳のときに脳梗塞で倒れ 
体の半分が不自由になった
収入が減ると 買い物好きな母親は生活費をやりくりするという概念がなく
ほどなく生活に行き詰まり幼い弟を連れて帰国した

マデリンは父親の世話をしながら
台湾の親族の援助を受け高校を出た

「幼い頃 バースデーには
私の名前がプリントされたバルーンで部屋中を埋め尽くしてパーティを開いたの
近くにすむフィリピン人のママの友人が何人もお手伝いに来て料理を作ってくれた
ママは指示をすると美容室に出かけたわ
友人たちはパーティが終わるまで待機して後片づけをしてから帰るの」

ため息をつくと

「あれは現実の出来事だったのかと思う…」

マデリンは膝の上に置いた手に視線を落とした


湯気の上がる厨房でパスタのタイマーが鳴る
ニンニクと唐辛子をローストする匂いに
食欲がそそられた


「沙弓さん ご案内します」

顔馴染みのギャルソンの案内で個室へ通された
ゆったりとした白いソファに沈みこむように座ると
少しだけマデリンの顔がほころんだ

「マデリン お腹すいてる?」

「あー…はい 少し」

「健ちゃん
今日のお勧めパスタと
クラテッロ
あとはシャンパーニュを

あー 高いのは駄目よ」

「かしこまりました」

ギャルソンが個室を出ていくと
隣に座るマデリンの身体にそっと腕を回して引寄せた

緊張で固くなるマデリンをしばらくそのまま抱くと
マデリンはしだいに自分の腕を私の身体に回し抱き合うような格好になった


「マデリン?私はねぇ…ビアンなの
女の子が大好き
男とはセックスしないのよ 嫌じゃない?」



見開かれたマデリンの眼に吸い込まれそうになる



なんて美しい…



両手で優しく顔を包むと
従順なマデリンの唇に

愛の洗礼をあたえた