第三話 ゲスト


カードをかざし
セキュリティゲートを抜け
エレベーターホールへ進もうとした所で


「杜川さん!」

と声をかけられた
名古屋支店から異動してきた田城史哉だ

「どうされました?」

「カードを忘れちゃって…
悪いんだけどゲスト用のを借りてきてくれるかな」

面倒くさい奴だ…

「わかりましたー」

少しふてくされた感じに返事をした
エレベーター待ちの滞留した人びとが
開いた扉に向かって秩序よく流れ始め
各々がボタンを押して奥へと進む

各駅停車だな…

急ぐ義理もないが早く済ませたかった
田城史哉が本社に戻り課内の女子は
若干?色めき立っている

まー 悪くないだろう

何がって

切れ長の目と何のスポーツをしていたのか知らないがほどよく盛り上がった胸板
下馬に家があって、母親は他界している

一般職の女子には きわめて狙い目

放っておけば良いのに田城がコピーに立つと
平静を装いながらより近くのポジション
にいたものが

「お手伝いします」

と うやうやしく売り込みを始める
出遅れたもの同士次を狙って牽制しあう



馬鹿馬鹿しい…

なんで今朝は誰も嗅ぎつけないんだよ?

ロッカーに行く前に総務に寄って
ノートに部署と名前を書き込むと
ゲスト用のオレンジのホルダーが付いた
セキュリティカードを受け取った

「6時以降は守衛室に返却してください」

知ってるわ…

イラッとしながら
ぶっきらぼうに返事をして踵を返した


下りは比較的スムーズに地上に着いた
セキュリティゲートのこちらから探すと
エントランスホールのソファで
書類に目を通す田城が見えた

「田城さーん」

名前を呼ぶと同時に今まさにゲートを通り抜けようとしている同じ課の三嶋美雪と目があった
田城の名前に反応したのだろう ゲートの手前で
ひらりと列を抜けわざとらしくバッグの中を探るふりをして時間稼ぎを始めた
ゲートに向かって駆け寄ってきた田城に
笑うと線になる目で三嶋はにっこりと微笑みながら

「おはようございます田城さん」

田城史哉は

「おはよう」

とだけ返すと手をあげて

『投げて』

とジェスチャーした
人の波が途切れるのを待って 私は力一杯 
カードを放った







4月の給料日あとの金曜日
新入社員の配属も決まり歓迎会が開かれた
退屈な一次会のあと若いメンバーは
駅前のチェーン店へ二次会に流れた

私は課長と主任たちに混ざって
フィリピンパブへ向かった
主任が以前フィリピンパブでの
課長のはしゃぎっぷりを面白おかしく話していたので

「次はご一緒させてください!」

と言ったのを覚えていて
一次会の後で

「杜川さんはこっちに来るよね?」

と耳打ちされた


ピンクや黄色の原色のはではでしいクッションが
置かれたL字の長いソファにでっぷりとした腹を
突きだして
小山課長は両手をソファの背もたれにひろげ
フィリピンパブの女の子を両側にはべらせた

私は末席で興味深く様子を窺っていたが
ホステスの一人に

「あんた新入り?」

と聞かれ

「小山課長の娘だよ」

と笑いをこらえて告げると
ホステスはウェイターに、運んできたフルーツ盛合わせを私の目の前に置くよう指示した

小山課長は

「オヤマサン」

と呼ぶホステスに何べんも

「こ・や・ま」

と教えていたが、甲斐もなく
オヤマサン オヤマサン
と呼ばれ続けていた

部下の目の前でホステスの股の間に手を滑り込ませ
何事か囁くふりをして耳たぶをしゃぶっているのが見えた

ふと

反対側のソファの端で水割りを作る
目鼻立ちのはっきりした
とても若いホステスが目に留まった

まだ慣れないのだろう
先輩ホステスがタガログ語で何事か
叱責している

私は彼女と先輩ホステスの間に
割り込むように座って
水割りを作るのを手伝った

それが
私とマデリンの出会いだった