第一話 妾



子供は
とても残酷な生き物だ


父は、別宅に暮らす母と私のところへ
月に一、二度訪れた
仲良しの鞠子ちゃんに

「今日はパパが来る日だから 遊べないの」

と言うと

「鞠子のパパは毎日帰ってくるよ 沙弓ちゃんのパパは どうして時々しか来ないの?」

と聞かれた


大人の事情など知るよしもなく
答えに困ったままわかれ道で手をふった

父はお人形やケーキを手土産に
夕食の間は私を膝の上に座らせ
母の作る手料理を私の口へと運んでくれた
たくさん話したくてお絵描きを見てほしくて
ねばったけれど、いつも早く寝かされた

布団をかぶっても目を瞑っても寝つけないまま

そのうちに母の甘えるような鳴くような
あの声が聞こえてくる

私の股の間はムズムズし始め、うす目を開けて裸で絡み合う父と母の姿を見た

優しい父が獣のように母を攻める姿に驚愕し
翌朝 新聞を広げる父を間近で見ることが出来なかった





ある日、鞠子ちゃんは

「沙弓ちゃんのママのお名前はメカケさんて言うの?変わったお名前ね」

と、しごく真面目に聞いてきた

「ちがうよ、ママの名前はキヌエだよ」

「鞠子のママが言ってたんだもん
沙弓ちゃんのママはメカケさんだって」

「うそつき」

「うそじゃないもん、ママはうそつきじゃないもん」

「そんなへんな名前とちがうもん まりちゃんのばかー」


メカケの意味はわからなかったけれど
よその家とは何か違うことに気づいていた
けれども母には『メカケ』の意味や
なぜ父はたまにしか帰らないのか
聞くことができずにいた

私は鞠子ちゃんとおままごとをするとき
父と母の真似をした

「まりちゃん、もっと アンアンて声をだすんだよ」

私と鞠子ちゃんは裸になると
子供部屋のキャラクター柄のマットの上で
見よう見まねに絡み合った


あるとき
ジュースをいれたガラスのコップが
開け放たれたドアの前で砕け散って
ワナワナと震える鞠子ちゃんの母親の様子に
これは ままごとには相応しくない行為だとようやく気づいた


家まで送られ、母親同士なにか酷い剣幕で
言い争ったあと

「もう まりちゃんとは遊んではいけない」

と、隙のない態度で宣告され私は黙って従った


それ以来、父が来ると二階にひとり寝かされた

夜が更けると畳の上に耳をあてて
階下の様子を伺った

食器が触れあう音

テレビから流れる
金属バットが炸裂する音と歓声

トイレの水が流れる音

父の前でだけ慎ましく笑う母のホホホ…という声



まだだ…
それじゃあない…


布団の中で温んだ脚を冷たい場所へ動かしながら
私は待った

テレビが消され生活雑音が途切れると
ようやく それは始まる…

しだいに荒くなる息づかい
ゆかが軋んで壁や柱をつたい二階の窓が微かに震える


「キヌエ…キヌエ…」

「あなた…あぁ…」





『アナタ…アァ…』
母の声を真似てムズムズする陰部に
恐る恐る触れる

いつも怖くて
その先、まで続けられない



その間もゆかは更に軋み
やがて母の叫びのような声のあと

それきり
沈黙が訪れる