503号室の前を通るとき
いまも習慣のように立ち止まってしまう
呼ばれるはずないのに
ほんの一瞬、待ってしまう
ナースステーションの前を通るとき
看護師のひとりと目があった
『彩希あきちゃん、大丈夫?』
と唇が動くのが読めたので
胸のまえで小さくOKサインを作ってみせた
年末に退院した慎一は、
4月から復学している
力尽きる命が常に身近にあるなかで、仲間の退院ほど嬉しいことはない
退院の前夜 慎一は
「やるよ」
と言ってiPadを私の枕元に置いた
「イマチニブがきっと効くから諦めるなよ」
けれど今、造血幹細胞移植に踏みきらなければならない自分の状態を
慎一に伝えることが出来ないでいる
窓から見える駐車場の桜は
いつの間にか緑一色になっていた
桜のつぎは、ゴールデンウィーク
梅雨に入ればもう、七夕まであっという間だ
今年は短冊になんて書こう…
そう遠くない未来の事でさえ、想像するのが怖い
両親のことを思うと
弱気になれる場所さえなくて
面会時間ぎりぎりまで帰ろうとしない母を追いたてるように帰してから
ふとんをかぶって泣いた
「彩希」
ふいに呼ばれて
泣きっ面のまま振り向くことが出来ず、慌てて頬を拭った
「シカトかよー」
「やだ、今日は外来?」
「俺のiPadのメンテナンスに来た
可愛がってくれてるか? 」
ベッド脇の椅子に腰かけ
正面から向き合ったときに
たぶん、泣いていたことを察したのだろう…慎一はティッシュを2、3枚とって手のなかに滑り込ませてきた
「ここにも花粉症発見 R1が効くらしいぜ」
「なによ、明治の回し者」
「ははは 彩希はチョコレートの方が良いんだよな、お子さまだから」
笑いながら
笑った反動で力が抜け
また涙がこぼれた
「彩希?」
「ごめん、ちょっとだけ」
慎一はベッドの縁に座り直すと、しゃくりあげて泣く私を 頭から抱え込むように引き寄せた
「イマチニブが効かなくて…
ドナーが見つかれば手術になると思う」
ひとしきり泣いたあと
それだけをようやく伝えることが出来た
斜めから見上げる慎一は
入院していた頃より
いくらか日焼けしたせいか
健康的な肌をしている
ボタンを外した胸元に目がとまると
急に恥ずかしさが戻り、ドギマギして離れようとする私を慎一は制した
「彩希は死なない」
「・・・」
「彩希は死なない…俺がそう決めたから」
慎一が言うなら
そうだろう
慎一が言うように
生きてみたいよ…

いつまであなたのそばにいられるかな
止まない雨はないと信じて
歩けるかな
私は何も忘れたくないの
月が綺麗だねと隣であなたが微笑む
by SEKAI NO OWARI
いまも習慣のように立ち止まってしまう
呼ばれるはずないのに
ほんの一瞬、待ってしまう
ナースステーションの前を通るとき
看護師のひとりと目があった
『彩希あきちゃん、大丈夫?』
と唇が動くのが読めたので
胸のまえで小さくOKサインを作ってみせた
年末に退院した慎一は、
4月から復学している
力尽きる命が常に身近にあるなかで、仲間の退院ほど嬉しいことはない
退院の前夜 慎一は
「やるよ」
と言ってiPadを私の枕元に置いた
「イマチニブがきっと効くから諦めるなよ」
けれど今、造血幹細胞移植に踏みきらなければならない自分の状態を
慎一に伝えることが出来ないでいる
窓から見える駐車場の桜は
いつの間にか緑一色になっていた
桜のつぎは、ゴールデンウィーク
梅雨に入ればもう、七夕まであっという間だ
今年は短冊になんて書こう…
そう遠くない未来の事でさえ、想像するのが怖い
両親のことを思うと
弱気になれる場所さえなくて
面会時間ぎりぎりまで帰ろうとしない母を追いたてるように帰してから
ふとんをかぶって泣いた
「彩希」
ふいに呼ばれて
泣きっ面のまま振り向くことが出来ず、慌てて頬を拭った
「シカトかよー」
「やだ、今日は外来?」
「俺のiPadのメンテナンスに来た
可愛がってくれてるか? 」
ベッド脇の椅子に腰かけ
正面から向き合ったときに
たぶん、泣いていたことを察したのだろう…慎一はティッシュを2、3枚とって手のなかに滑り込ませてきた
「ここにも花粉症発見 R1が効くらしいぜ」
「なによ、明治の回し者」
「ははは 彩希はチョコレートの方が良いんだよな、お子さまだから」
笑いながら
笑った反動で力が抜け
また涙がこぼれた
「彩希?」
「ごめん、ちょっとだけ」
慎一はベッドの縁に座り直すと、しゃくりあげて泣く私を 頭から抱え込むように引き寄せた
「イマチニブが効かなくて…
ドナーが見つかれば手術になると思う」
ひとしきり泣いたあと
それだけをようやく伝えることが出来た
斜めから見上げる慎一は
入院していた頃より
いくらか日焼けしたせいか
健康的な肌をしている
ボタンを外した胸元に目がとまると
急に恥ずかしさが戻り、ドギマギして離れようとする私を慎一は制した
「彩希は死なない」
「・・・」
「彩希は死なない…俺がそう決めたから」
慎一が言うなら
そうだろう
慎一が言うように
生きてみたいよ…

いつまであなたのそばにいられるかな
止まない雨はないと信じて
歩けるかな
私は何も忘れたくないの
月が綺麗だねと隣であなたが微笑む
by SEKAI NO OWARI