万人に理解されたいと思ったことはないの

気難しい子…
そう思われ遠巻きにされることは苦ではなかったのよ

どうして
あなたに理解されたいと
思ったのかしら…

惨めだった子どもの頃の話なんて、
同情を乞うみたいで嫌だな…って 
ずっと思ってたはずなのにネ





灰が落ちる寸前に
マリコは灰皿を落下地点へと滑らせた

間接照明だけの
薄暗いベッドサイドに
デジタル時計の数字が青白く浮き上がる



いつものように会い
いつものように愛し合い
いつものように帰り支度をしながら
マリコはまるで
別れ話を切り出すための助走のように
過ごした日々を反芻する





切れ長の目に
すみれ色のアイシャドーがよく似合う
伏し目がちで
長い睫毛が印象的な

淋しげな面差しのマリコ




男の愚痴や苦悩に頷くでもなく
ただ黙って耳を傾け
ベッドのなかでは四肢で絡みつくように
しっかりホールドされると
くたびれた体を二晩でも三晩でも預けてみたくなる


軽くなでつけシワを伸ばしたシーツは、ふたりの体温がまだほんのりと立ち上るような艶かさを残している


なにをねだるでも
なにを拗ねるでもない女というのは、
こちらが入れあげるほど厄介になる


フェードアウトというよりも
ある日 不意に飛び立つように去る女を想像し苦い思いが胸に広がっていく

小首を傾げ
ピアスをつけるマリコを
瞬きを忘れたように見いった





わたしは素直じゃないから
あなたを満たしてあげられないのかもしれない…







ああもう、やめてくれ

それ以上は…



堪らないという思いでマリコを引き寄せる


目の前にいても
腕のなかにいても
心が自分に向かっていないと察してしまう



恋に全力になる歳ではない


だが
微睡みのなかで
心底愛しいと思える者を
抱きしめている安息に
何度 救われただろう




低いエンジン音や
クラクションに混ざって
雨の音がする





どちらが根負けして
腕をほどくのだろう


乾ききらない髪のなかに顔を埋めて


全力になるのも悪くないと思い始める自分がいる