『実存主義者のカフェにて』(サラ・ベイクウェル著/紀伊國屋書店)を読んで | 日々感じたこと・読んだ本

『実存主義者のカフェにて』(サラ・ベイクウェル著/紀伊國屋書店)を読んで

実に面白かった。

サルトルやメルロ・ポンティ、ボーボワールらが、戦前・戦中・戦後と激動する情勢の下で、懸命に自分が信じた思想と行動の一致を目指して生きた姿を、パリでの交流などを盛り込んで、丁寧に描いた作品。

ノンフィクションならではの面白さが充満している作品だった。

社会科の「現代社会」や「倫理社会」などに名前が出てきて、その業績を数行読んだだけの彼ら有名人に加えて、彼らと直接間接的に同じ時代の空気を吸って、なんらかの影響をあたえた、ハイデッガー、ヤスパース、フッサール、そしてカミュなどの生活ぶりもいきいきとして描かれているから、現代思想のおおもとを作った20世紀前半を中心とした時代で懸命に生きた姿がいじましいくらい切実に感じられる。また、作者のサラさんはこのノンフィクションを書く過程で、再度彼らの著書を読み返したこともあり、サラさんが彼らの思想に感じている見解もとても参考になった。

 

個人的にはサルトルとボーボワールの人柄、そして彼らの関係性から、当時のパリのカフェでの様子がまざまざと感じられ、ああ、パリに行く前にこの本に出合いたかったなどとも感じた。また、一昨年逝去した父が実存主義文学を指向していたことも思い出し、黒のタートルネックのセーターをよく着ていたのは、彼らにあやかるつもりだったのではないかとあらためて感じれたのも良い経験となった。

 

私は、この本を読んで、上記の人に加えて、途中登場してくる多くの方の本を読みたいと思った。たとえば、リチャードライト、フローベルなどだ。

哲学、文学、歴史(特に20世紀前半のドイツ史)のそれぞれの分野の入門書として有意義なノンフィクションではないかと感じた。