藤原緋沙子さん『別れ烏』(藍染袴お匙帖「雁渡し」収録)を読んで | 日々感じたこと・読んだ本

藤原緋沙子さん『別れ烏』(藍染袴お匙帖「雁渡し」収録)を読んで

読み終わってふと表紙を眺めました。

この双葉文庫の表紙の絵がいつもながら好きだからです。

ああ、この絵はこの作品の情景じゃないな、他の作品だな、と

次の収録作品への期待をさらに高めつつ、なにげに腰巻を読んで、驚きました。

 

そこには

「江戸に

人生を救う

女医あり」

というキャッチフレーズがあったのです。

 

まさに、正鵠を得ているフレーズ。ほんとそうです!

 

一瞬感動しました。

読み終えた直後だったので、まさにこの言葉におおいに共感できたからです。

 

すごい☆彡

 

物語について■

相変わらず美しく優しく哀しく。

絵になるシーンが多いです。

父一人娘一人の草深き一軒家で、父を一人で看取らざるを得なかった娘の耳に聞こえてきたこおろぎの鳴き声は、どんなだったんだろう・・・。

タイトルは母烏が子と別れる時に呻く、もの哀しい声からつけられたようですが、

私にはこのこおろぎの声のほうが印象深かった。

 

藤原先生の作品は江戸を舞台にしていますが、そこにいる人々が過去に住んでいた故郷の在りし日の様子などを記す際に、印象的にこれらのアイテム(今回は「こおろぎ」)が登場し、それがなんともいえぬ望郷の念を読む人に感じさせてくれます。

 

これってもしかすると、生粋の都会の人と、「上京」を経験してきた人では、感じ方がまったく違うかもしれません。私は後者なので、すごく芯に迫ります。

 

そして、なによりうれしいのは、物語がハッピーエンドで終わること。

そのハッピーエンドも手放しの喜びではなくて、いわゆる「好転するかもしれない「兆し」的なもので終えているので、余韻は膨らみ、読者の気持ちはしみじみとしてしまうのです。

熱いお風呂もいいが、ややぬるめでじわーとくる湯加減。

そんな感じかもしれません。

東京に雪が積もった寒い一日の夜に読んだので(笑)失礼しました。