藤原緋沙子『ひょろ太鳴く 鳶坂 夏』~人情江戸彩時記~(新潮文庫表題『月凍てる』)を読んで | 日々感じたこと・読んだ本

藤原緋沙子『ひょろ太鳴く 鳶坂 夏』~人情江戸彩時記~(新潮文庫表題『月凍てる』)を読んで

この作品は~人情江戸彩時記~(新潮文庫表題『月凍てる』の第2話。

 

こちらも作者藤原緋沙子先生の作風の魅力がぎっしり含まれていました。

 

・物語の印象を強めるアイテムが活き活きと描かれている・・今回は鳶

・男女、肉親、ご近所、それぞれの愛情、細やかな人情が描かれている

・季節と場所が物語の色彩を与える(今回は、坂、と 夏)

・一見ありがちな登場人物設定で、落ち着きどころが見えそうな物語の筋ではあるものの、そんな読者にも「読み進める楽しさ」を徐々に感じさせてくれる話の展開

などです。

 

烏にいじめられている鳶の雛を助けて、家に連れて帰り育てた、主人公の父。

やがて鳶は成長するも、職場で折り合いが悪い父は、仕事を干され、酒におぼれ、妻はあいそを尽かし出ていってしまう。その後のお世話を続けた一人娘おやえがこの物語の主人公。

 

やがて娘によい人ができ、幸せに手が届くと思う矢先に、ある事件が起こってしまう・・・。

 

この父の存在、そして、おやえを見初めたはずの直次郎がおやえとの結婚の約束を反古した真相、そして父との対決と和解など。

実に人情に満ちたドラマが続き、ラストがどうなるのか想像もできない物語でしたが、ラストシーンに「明日への希望」が感じられ、心温まる余韻が残る傑作でした。