藤原緋沙子『走り雨』(藍染袴御匙帖第4話)を読んで | 日々感じたこと・読んだ本

藤原緋沙子『走り雨』(藍染袴御匙帖第4話)を読んで

第一巻『風光る」の最後に掲載されている『走り雨』。

 

藤原先生の作風の特徴は前回の『第三話 春落葉』で記しましたが、もうひとつ特徴があることをこの第四話『走り雨』を読んで確信しました。

それは、藩名もフィクションではなるのですが、実は、それぞれ実在の藩での出来事をモデルにして作っているということです。ですから、その藩(作品上ではエリアとして記されていますが)の精神土壌などをそこから参考にすることも楽しいということです。

この『走り雨』のモデルは、出羽の上山藩かと思います。

作中では出羽の本山藩とされていますが、領地削減により、江戸時代を通じて稀に見る大きな百姓一揆が起こった同藩の史実に着想を得て、藤原先生は、この作品の筆を進めたのかと推察しています。

 

そして今回の物語の中で最も鮮明なもの、それは、江戸のまちなかに響いた「鐘の音」ですね。

雪婆、とりもち、花蝋燭などなど、当時の暮らしを彩る文物をひとつひとつ丁寧に描いている時代小説。読後にえもいえぬ精神浄化を感じるのは、登場人物の人柄や振る舞いだけが理由ではなさそうです!