藤原緋沙子『春落葉』(藍染袴御匙帖 第三話)を読んで
またまた唸ってしまいました。
文章、あらすじ、テーマ、すべてが素敵な時代小説です。
藤原さんの小説を読んで気づいたのですが、彼女の創作動機のひとつには、「絵になる情景をイメージしておく」ということかなと推察しています。
以下ネタばれがあるので、ご注意ください。
この「春落葉」での「絵になる情景」は、今回の主人公がまだ郷里の藩の鳥刺し役(藩主の鷹の餌である鳥を集めて供する職業)だった頃の忌まわしくも悲しい事件の様子でしょう。これは彼女の作品を最初に読んで唸った「雪婆」の回想シーンにも匹敵するくらい強い印象を残しました。
そして、重要なアイテムとして登場する「鳥もち」。
その「鳥もち」を巡った事故。
弟の亡骸を目の当たりにした時の兄の悲嘆など。
すべてが、一枚の絵、いや、動画のような鮮やかな追憶シーンとなって、私の心をとらえて離しませんでした。
藤原先生の小説は、このような見事な部分に加えて、主人公の千鶴の凛とした、まさに藍染袴を靡かせて歩く行動の線と気持ちの気高さ、美しさ、
そして、毎回の事件の当事者のやむにやまれぬ動機などなど。
本当に心が洗われる物語ばかりです。
ありがとうございました。