藤原緋沙子『花蝋燭』を読んで | 日々感じたこと・読んだ本

藤原緋沙子『花蝋燭』を読んで

書き下ろし時代小説『 藍染袴お匙帖 』シリーズの第一巻の第二話なのだが、見事過ぎる。第一話ではじまったこのシリーズの二作目なのだが、もうすでに、第一話で登場した登場人物のそれぞれの人柄がくっきりイメージでき、すでに安定した世界観が確立しているのに驚いた。

 

藤原緋沙子さんは、「先生」とつい呼びたくなるような、しっかりとした良識に裏打ちされた江戸下町の庶民の人情ドラマを描かれている。

 

ここでも今後藤原先生とお呼びしたい。

 

先生の物語には美点がたくさんある。情景描写が丁寧で、たぶん江戸の古地図に忠実に設定されているからだからだと思うのだが、物語の背景から私達読者は舞台をまるですぐそばで見ているような臨場感をもって楽しめる。

そして、人と人の「情愛」がテーマになっているし、巨悪や殺伐とした風景が出てこないので、人を殺める話でも、あまり心拍数を増やさずに読めるし、なんといっても、人間の良識を信じているような筆致がいい。先生の人に対しての視線に優しさと慈しみがにじみ出てくる。

 

また、主人公の千鶴さん(女医)の職業倫理と人としての感情などは読者からも十分感情移入できるし、彼女をとりまく助手やお手伝いさん、同心や侍などそれぞれが人としていい味を出している。

 

そして私が何よりいいなと思うのは、短編の中に、必ずひとつは、「その情景がありかりと心を打つ」シーンがあるからだ。

ここが先生の魅力の最も強いところだと思う。絵画的なのだ。ビジュアル映えがするのだ。

たぶん、この「絵になるシーンを作る」というのは、先生がドラマの脚本などを多く手掛けていることに関係があるのだろうと思う。

 

この「花蝋燭」を象徴するシーンは、やはり文庫本の表紙にも描かれている、赤子を牢屋から医院に抱きかかえ帰るシーンだと思う。前を蜂谷、後を有田の2人の牢番に挟まれてしずしずと赤子を抱え医院に戻る千鶴。蓬田やすひろさんのイラストが味わいがあっていい。

 

この『 藍染袴お匙帖 』シリーズはまだ私は5作しか読んでいないので、これからたっぷり楽しめると思う。とてもうれしい☆彡