・・ 夢と現の朧なる ・・ -191ページ目

物心ついた頃には、母はピアニストだった。


私が幼いころに初めてのソロリサイタルを開催して、


以来、何年かに一度リサイタルの機会を設けている。




リサイタルホールの空気とか、


大勢のお客様とか、


照明のついたステージ、


華やかなドレス、


そしてお祝いにいただく花束の山。




何もかも、何年かに一度訪れること。


非日常的でありながら、我が家にはごく自然なこと。


だからそれを、すごいとか、特殊とか、他人と違うと考えた事はない。




だけど、今になってようやく実感するようになってきた。


それは少し、特殊なことだと実感するようになってきた。


それは、多数の人と同じことではないと実感するようになってきた。




家庭のカタチは様々で、


家族の繋がりも多様な時代だ。


それぞれの家庭に、それぞれの『当たり前』が存在する。


私の家族の、『当たり前』が存在する。




『当たり前』だから、大変でもないし、すごいと誉められることでもない。


傲慢ではなく、素直にそう思っている。


だから、少しだけ困る。




『大変だったでしょう』


とか


『すごいわね』


とか。



言われても、それが当たり前の私には大変なことなど何もない。



ただ、一人でステージに立つ母は大変。


何もかも一人で動いて、一人で決めて、一人で立ち向かう母はすごい。



そんな母の背を見て、私はどれだけ支えになれているのかと思わされた。


今まで漫然と過ごした、リサイタルという日に。


それだけじゃない、母の生き方そのものに。



自分のことばかりに夢中で、真っ直ぐ向き合いきれていない不器用な自分に、


もっとやるべきことがあるように思わされた日だった。




ママ、


今日はおつかれさま。




・天涯繚乱 Act、81 掲載




今週一週間は早すぎました。


何故??


前回、ショートの外伝を掲載してからあっという間だったよ?!




…GW中にTOPの更新に手を着けようと思っていたのに、挫折してしまいました。


しばらく、今のままです。



夏日のGW最終日。


晴天に誘われ、彼は出かけた。




Tシャツ、ハーフパンツ、ナイロン製の袖なしベスト、素足にサンダル。


頭には、お気に入りのヘッドホン。




目的地は、行きつけのビーチ。


降り注ぐ陽射しの下、心地好く日焼けして夕方に帰宅する。


帰る道すがら、ビールのおつまみを買って帰ってくるあたりは抜け目無い。




そして夕飯時。




ふと彼を見た私は驚きに目を丸くした。


日焼けに赤くなった顔や腕は当然の事だ。


そんなことではない。



彼の首がしましま焼けしていたことだ。



正面から見た母は言った。




「綺麗なツキノワになってるわよ」




賛辞のつもりなのか。


彼の首は、俯いた時に出来た顎と首のたるみにしまいこまれた部分だけ日に焼けず、見事なまでにクッキリと赤白のストライプになっている。


ツキノワの線が三本。




ナレーション:ここ、東京都○○の民家に、ツキノワウシ(※)が現れたとのことです




母、私、弟の三人で爆笑。


つられて本人も笑い出す始末。



いや~、ビックリした。



だけど父よ…明日からしばらく、その首をどうやって生活するつもりだろうか。




※注釈…我が家では、父のことを「うし」くんと呼んでおります。

  他の三人にもそれぞれ、家族間でのみ有効な通称があります。