それは、突然の病に倒れた末、戦禍に巻き込まれて命を落とした少女の強い未練だったのか。
ある夏の日、両親が揃って出掛けてゆくのを見送った。
一人で留守番するのは珍しい。
眩しい陽射し。
蝉の鳴き声。
吸い込むと鼻に残る、土と草の蒸れた匂い。
だけど風は、わずかだが涼しさを運んでくる。
秋の気配をはらんでいた。
ほんの少し解放的な気分になって、胸いっぱいに深呼吸する。
見上げた空は綺麗な青。
同時に、全身が一つの鼓動になったように震えて、胸に激痛が走った。
一気に血の気が引いて、その場に崩れる。
太陽の容赦ない光が、身体中を貫くようだった。
蝉たちの合唱が耳一杯に溢れて、自分を責め立てるようだった。
痛みと苦しみと突然の出来事で混乱する中、それが最後の感覚として残った。
『どうして?』
思う間もなく意識は閉ざされた。
戦争の最中、少女の家のある一帯が空爆されたのは、その直後だった。
両親は、娘を一人で残したことを悔いていた。
彼女が何かの発作に見舞われて倒れたことまでは知らない。
ただ、愛しい一人娘が人生を謳歌するのはこれからというときに、惨い死に方をしたことが不憫でならなかった。
戦争とは、悲しいことばかりだと語った。
そして。
娘は亡くなったが、その心までは死に切れず、今でも様々なものに身をやつして現れるという。
全部で六人。
死んだ娘の他に、
調理場で働く女、
娘を名乗る少女、
少女の面影を色濃くしてゆく絵画。
あと、二人。
ばらばらになった娘の未練が何処にあるのかを探し出して、成仏させたいと願う両親。
手がかりを掴む為に、生前の少女の話を聞き、写真を見た。
それから。
両親、親戚の従兄と共に写した写真が長いこと飾られていた部屋の一角で、少女同じ立ち位置で改めて写真を撮る。
成仏のための手助けを要請された男女二人はそれぞれ、少女の立ち位置と従兄の立ち位置に立って寄り添った。
カメラのシャッターが下りるのを待つ。
『お願いします』
男性は声を掛けたが、カメラマンは何故か動かない。
不思議に思って連れの女性に振り向こうとすると、強い力で押し返された。
マズイと思ったときには、彼女は憑依されていた。
女性の力とは思えない強さで掴みかかってきて、首を絞めようとする。
細い両の手首を掴んで、彼はなんとか目覚めさせようと声を掛けた。
必死になって叫んだ。
胸に痛みが走って、身体が大きく揺さぶられた。
『しっかりしろ!目を覚ませ!!』
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意識が夢から現実に移ってゆくとき、まだ、全身が激しく揺すられていました。
地震?
そう思って、必死にクローゼットの外に掛けている洋服の裾を見たけれど、微塵も揺れてない。
心臓は激しく脈打って、目を開けると頭がクラクラする。
しばらく深呼吸をして、やっとベッドから起き上がれました。
今朝見た夢。
両親を見送って、発作に倒れる少女の体験をそのまま味わって。
空爆から、少女を成仏させたいという両親の話は第三者として見聞きして。
写真撮影時の男性の体験を、そのまま味わっての目覚めでした。
時折見る、和製ホラーの夢。
ただの夢だと思う反面、あまりにリアリティがあって、絵空事とは思えない感覚に陥ります。
少女の未練は本当にあったのか。
メッセージを伝えられた事で、私に何が出来るのか。
夢が本当かどうか、それを調べる術はありません。
確かに言えるのは、世の中にはこれと同じか、より一層悲しくて辛い出来事があるということ。
私はそんな現実を知りながら、平和を願うしか出来ないということ。
それでも、自分の目の前にある場所だけでも、平和であることを願っていれば。
みんながそう思って人と繋がっていければ。
こんな悲しい夢は無くなるのかな。