メイドカフェに潜入
僕は、友達(童貞)に「今日、メイドカフェ行かない?」と受話器越しに尋ねると、「行く行く!!」と興味津々に答えたので、僕らは駅前で待ち合わせ、しばらく電車に揺られながら目的の街を目指したのです。
いろいろあってメイドカフェに到着。ダメです、はじめの一歩が踏み出せません。まるで、僕の足は別の意思を持って進むことを拒否しているかのように、地面から離れてはくれないのです。
――こんちくしょうッ!!折角ここまで来たのに一歩が踏み出せないなんて、この意気地なしめ!!そんなんだからいつまでたっても童貞なんだ!!しっかりしろよ!!
僕は、心の中で不甲斐ない自分を叱咤します。そんな気合を入れてる僕を一瞥すらせず、同行した友達(童貞)はすたすたとメイドカフェの中へと入って行くのです。
「ちょっ、ちょっと待ってよー!! まだ心の準備がっ!! 待ってッ!!一人にしないでーー!!」
無事、メイドカフェへの潜入に成功です。心強い味方がいて助かりました。
「おかえりなさいませ、ご主人様ー」
「えっ・・、あぁ・・え?あっ・・ども・・・」
「本日はお二人様ですか?」
「あっ、はい、そうです・・・」
「こちらへどうぞ!!」
僕は、自信満々な態度で、メイドカフェへと入店して、メイド様の深いお辞儀を高い位置から見下ろし、軽く優越感に浸ります。
メイド様に案内されるがまま、僕らはテーブルにつきました。日ごろ、女の子とあまり接触する機会のない僕は、この偽りの主従関係のなかにある、メイドたちの従順さに心臓を高鳴らせるのです。
「オーダーが決まりましたら、こちらのベルを鳴らしてメイドを呼んでくださいませ、ご主人様」
「えっ?あぁ、これですか? あぁ、はい・・・」
(チリンチリンチリン・・・・)同行してくれた友達(童貞)が僕に断りもなくベルをチリンチリンし始めました。まだ、選んでる途中だっつーの!!僕の焦燥感は、メイド様の足音が近づいてくるにつれてどんどん高まり、足音が止まったところでピークを迎えました。
「お決まりでしょうか? ご主人様」
「アイスココア、お前は?」
「えっと、えっと、ちょい待って・・・、えーっとぉ・・・じゃぁ、アイスレモンティーとオムライスで!!」
第二関門クリアです。メイド様がメニュー表を持って奥へさがると僕は安堵感からホッと胸をなでおろしました。
やがて、メイド様はトレイの上にオムライスとアイスココア、レモンティーを乗せて僕らのテーブルの前までやってくると、事務的な笑顔で僕らの目の前へオーダーした料理を並べました。
「オムライスを注文したご主人様、オムライスの上にケチャップで絵を描かせていただくのですが、何でも好きなものを言って下さい」
「えっ!! えっとぉ、何でもいいですよ。」
「えぇぇ・・うぅぅ・・・、何か言って下さい・・・(悲しそうな瞳で)」
「えぇぇー!! えっと、、うんっとぉ・・えぇーっと、じゃぁ、ハートマークで・・・」
(答えてすぐ、ハートマークはないだろ・・・って思いました。ごめんなさい。)
「はい、ご主人様」
ぐちゃぶりゅりゅりゅぶちゃ・・・・・
「すいません、あんまり上手くかけなくて・・・うぅぅぅ・・・(泣きそうな瞳で)」
(なら描くなよと言いたいところですが、ここは我慢。)
メイド様は、オムライスというフィールドをトマトケチャップという狂気で好きなだけ荒らすと、厨房の奥へすたこらさっさと消えていきました。オムライスに銀のスプーンをさし、適当な大きさを口に運びます。
――うわー微妙ーッ!!美味くも不味くもねぇー!!ケチャップかけすぎてすごい辛いし・・・、あんまり食べたくないなぁー。でも残すのも悪いし・・・
そんなジレンマに板ばさみになりながらも、僕は美味しそうな表情で真っ赤なオムライスを平らげるのです。
料金を払い、いってらっしゃいませ、ご主人様ー、という可愛らしい声に後ろ髪を引かれながら僕らはすでに暗くなった街へと出るのです。目の前を通り過ぎるカップル、唇についた辛いケチャップの味、星の見えない夜空、肌に刺さるように吹き付ける冷たい風、ちょっとだけ死にたくなりました。
でも、今日僕は成長することが出来たと思うんです。何を学んだかはよくわかりませんが、すこしだけ童貞卒業に近づいた気がしなくもないですし、メイドカフェというものを知ることが出来たので、今日の社会勉強は成功ということにしておきます。
それでは、また来年会いましょう。さようならー