東京出張の帰り道、東京駅でおみやげの東京バナナと車内で飲む缶ビールとつまみにカツサンドを買った。週末の東海道新幹線は混んでいる。早めに指定席を確保しておいて正解だった。自由席なら早めにホームへ行って並ばないといけない。のんびりおみやげとつまみを物色している場合ではなくなる。ともあれ今回の出張は散々だった。


朝、新大阪でハイヒールを履いた女性に思い切り足を踏まれ、午前中いっぱいじんじんとした痛みを感じつつ、一件目の訪問先の担当者が急病で休んでしまい、気分を変えて美味しいオムライスを食べようと出張のたびに行く店が長期休業おり、動物には好かれる体質なのに散歩中のチワワにやたらと吠えられるし、部下が資料を忘れててんやわんやするしで大変だった。帰りの新幹線くらいゆっくりしようと腰を落ち着かせると新幹線は新幹線で泣きを見ることに。

私はC席を取り、部下は私の前の列のC席に座る。3人掛けの通路側なのだが、足が伸ばせるしトイレにも行きやすいのでいつもC席にする。多くの場合、特に新大阪止まりののぞみではB席に誰も座らないことが多いので好んでC席にする。今回はそれが凶と出た。週末の東海道新幹線を舐めていた。

私の隣のB席に、ゆうに130kgは超えているであろう巨漢の男性が座ったのだ。圧力が半端ない。カツサンドを食べる気にもならないし、明らかに席のサイズをはみ出ている。このまま2時間半は無理だ。

おい、席を変わってくれ

職権行使、まぎれもないパワハラで部下と席を変わろうかと思った矢先、部下の隣にはさらに巨漢が座った。どこの国の人だろうか、部下の隣は巨漢の白人だった。部下は私の方を振り返り、隣の巨漢を一瞥した後、意味深な表情で頷いた。


新横浜駅を出ると名古屋までノンストップの長旅となる。部下はほとんど席を立ってタバコを吸いに行っていた。喫煙ルームにこもりきりでコーヒーを飲みながらスマホでゲームをしていたという。優雅なものだ。私はタバコを吸わないので立っていても仕方ない。とにかく喉をうるおそうとビールを飲む。部下も乾杯だけは付き合ってくれた。

いやぁいろいろあったが仕事終わりのビールはうまい!最高だ!

という気分を、すきま風のような隣の巨漢の大きな鼻息が気分を壊す。しかも時折、遠くで笛の音が聞こえるかのように、ピィーピュイーと鼻が鳴る。加えて堪らないのがゲップなのか咳払いなのかわからない異音。ベフゥとも聞こえるし、ンンンとも聞こえる。とてもカツサンドには手が伸びない。あぁ、キャベツたっぷりでソースもしっとり染み込んでいるのに。


仕方ないので肩身を狭くしながら目を閉じて眠っていた。笛の音は相変わらず聞こえるのだが、15分に一度席を立つのも堪らない。足を避けるだけでは通れないので、都度席を立たないといけない。それでも窮屈そうに抜け出すので始末におえない。やはり太り過ぎは体に毒だし少し痩せたほうがいい。少し食べる量を減らして胃を小さくすればすぐ痩せそうなのに。そんな御節介を考えながら席に着くと、今まで巨漢で隠れていて、あまり気にしていなかったA席の人と目が合った。窓際でパソコンを使って仕事しているキャリアウーマン風の女性だったが皮肉にもかなりの細身だった。苦笑いされていたので、お互い苦労しますねと言うと手で口を隠しながら上品に笑った。あと一時間頑張りますと言いながら。


名古屋で巨漢が降りることをひたすら祈ったが叶わず、2本目の缶ビールを飲み干した。このままでは悪酔いしそうなので、喫煙ルームから戻ってきた部下に、飲みに行こうと言うと新大阪で串カツが食べたいという。

新大阪駅に有名な串カツ店がある。何度も行ったことがあるがいつも混雑していて並ぶ事が多い。

週末やから混んでるやろ、他にないか?

そう言うと部下はスマホで新大阪駅周辺の居酒屋を調べ始めた。まだ巨漢の白人が乗っているので部下も窮屈そうだ。

焼鳥、炉端焼、お好み焼、海鮮問屋、どれも魅力的な文言が並ぶ。そこでもないここでもないと話していたのだが、やはり串カツがどうしても食べたいと部下に懇願されたので折れた。すると隣からよだれをすする音が聞こえた。

え?まさか??俺らの会話でお腹減ったの??

私は笑いを堪えるのが必死だ。部下は俯いて思い切り鼻をつまんで笑いを堪えている。またその光景が可笑しくて笑いそうになる。笛の音が圧力鍋の炊き上がりの音に変わった。カツサンドも食べられず仕舞いで持って帰ることにした。


そうこうしていると京都に到着し、巨漢は降りて行った。本当の安堵とはあの時の事を言うのか、私もキャリアウーマンも深いため息をつき、広々と座席を使えることに喜びを感じた。とはいえ新大阪までたった15分。これほど新幹線の座席が広かったのかと思わせるほどの圧力には参った。

予定通り新大阪駅の改札を出て串カツ屋に。10人ほど並んでいたが、待ち時間はたった20分ほどだった。カウンター席に通され、瓶ビールと串カツを適当に頼み付け合せのキャベツを頬張る。やっと落ち着いた気分になった。串カツを10本ほど食べて、瓶ビールを3本飲んだところで帰ることに。


串カツ屋から地下鉄の駅に向かう道中、部下はJRなのでそこで別れた。すると突然、中国人家族に話しかけられた。私は中国語がまるでダメなので、英語で話してくれと促す。しかしいくら英語で話しかけても英語がまるで通じない。中国人の両親と息子と娘の4人は何やら打ち合わせを始め、まとまったのか息子がガイドブックを取り出す。どうやら梅田のスカイビルに行きたいらしい。今日は厄日だったから最後は人の役に立とうと思い、家とはまるで違う方向のうえ、わざわざJRに乗ってスカイビルまで一緒に行くことにした。道すがら楽しそうに家族みんな話しかけてくれるが言葉がわからない。時折お父さんが私の肩を叩いて笑うが意味不明。仕方ないので愛想笑いで返すと家族みんな笑顔になる。そのうちだんだん私も楽しくなってきて自然と笑顔になる。

スカイビルはあそこだよと教えてあげると、お父さんが、謝謝!謝謝!と言って握手してきた。ついでにこれ食べるかと、カツサンドを渡すと息子と娘が大喜びしていたのでまた謝謝!謝謝!と大きな声で言われた。周囲は仕事帰りの人達でごった返していたから少し恥ずかしかったので私は帰路に着いた。背中からまた、謝謝!謝謝!と言われたので手だけ振って帰る。

せっかくここまで来たなら。

私はお初天神にある馴染みの店に顔を出すことに。あぁ、結局はまた一人飲み。中国人家族の明るい笑顔が思い浮かぶ。私はおちょこで酒を飲む。今頃は展望台で大阪の夜景を楽しんでいる頃かな。自然と口角が緩むのが自分でもわかったのであった。