今回は生命科学関連のテーマです。
ニワトリのような高等な動物の胚から、腎臓とか網膜とかいった器官や組織を取り出して、これに特別な処理、カルシウムを除いた上で、トリプシンという蛋白分解酵素を加える、を施すと、個々の細胞がだんだんルーズとなり、生きたままのばらばらの細胞になることが見つけられた。また、これらの細胞を適当な条件において培養すると、数日もたつともう1回集まってきて、まったく元と変わりない、組織や器官といった多細胞の構造に復元するという。さらに、肝臓と心臓からばらばらにした細胞を混ぜ合わせておくと、最終的な復元の起こった時には、両者は肝臓の組織、心臓の組織といった風に分離しているという。つまり異なった器官・組織に属していた細胞の間では相性が悪く(親和力が負)隣が何者であるかを細胞自身が「認識」することができるらしいのである。
後にこの親和力に関係している、カルシウムの存在下のみで働く、細胞同士の接着物質の一つであるたんぱく質が発見された。接着を英語でいうとアドヒーション、カルシウム存在下のみで働くということから「カドヘリン」と名づけられた。分子量12万程度のたんぱく質である。カドヘリンの分子の構造は、細胞のタイプごとに少しずつ異なっている。異なったカドヘリンをもつ細胞の間では、相性は悪い。また、カドヘリンの存在が形を整えていくために必須であることもわかってきて、ここで親和力の分子的説明も可能になりつつある。(「学問の周辺」岡田節人著)
カドヘリンのような細胞接着、親和性に関連する物質は「かたちづくり」に関係しているばかりか、がん細胞がどうして特定の組織に転移しやすいのか、また神経ネットワークがどうやって形成されていくのか、といった問題を分子的に解明する手がかりとして注目されつつある。