風吹きの日は遠出をするものではないと、昔の人は言った。
ことの他、ドバイであればその言葉は、それなりに意味を持つのかもしれない。
室内にいても届く風の音と、鈍色にのしかかる空が、否応なくそう思わせた。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20220102/16/chef-tatsu/03/62/j/o1080081015055471165.jpg?caw=800)
建国50周年を迎えたアラブ首長国連邦は、独立国家として50回目となるこの正月を盛大に祝った。
至る所でカウントダウンイベントが催され、2022の到来と同時に無数の火の花が、涼やかな濃藍の空を彩った。
出不精な僕はその祝祭の光を、自宅の窓から無関心に眺めるに留まった。
窓の外を覗き込むと、通行止めされたシェイクザイドロードが濡れて光っていた。
大晦日、ドバイは雨が降ったのだ。
日本人的な感覚だと、大晦日なり元旦なりに雨が降るとあまり良い気はしないものだが、ここ中東では些か事情が違う。
年に数回しか雨の降らないこの地域において、雨は文字通り【天の恵】であり、乾燥した砂漠に齎される喜ぶべき非日常なのだ。
────それにしても、このタイミングで雨とは、取ってつけたようだな……
窓の外、海から流れてくる黒雲を見ながらそう思った。
UAEでは数年前まで、頻繁に人工降雨を行っていた。
その雨はまさに不自然で、バケツをひっくり返したような豪雨になることも少なくなかった。
基本的に雨を想定していないこの国では、建物も道路も、雨に弱い。
少し降っただけで道路は冠水、建物は雨漏りし、酷い時には電気系統も異常をきたす。
それにも拘わらず敢行していた人工降雨はある時、度を超えた。
想定外の大雨となり、洪水の被害まで出たのだ。
それを受けドバイ政府は人工降雨を一時停止、程なくして王様が『人工降雨ってやっぱ環境破壊に繋がるっぽいから、もうやめるね』と、公式に発表した。
実際にそれ以降、ある程度定期的に降っていた雨はピタリと無くなった。
あれからどれくらい経っただろう。
もう人工降雨はやめたのだろうと当然のように思っていた中での、雨。
それも、見計らったかのように大晦日昼間だけ降り、花火が上がる夜にはピタリと止んだ。
これ、また降らせたよね────。それが、この国に住まう人々の共通認識だった。
別に、人工降雨が悪だとか、環境破壊だとは思わない。
きっと誰も、そうは思っていないだろう。
ただ、ちょっと降っただけで交通障害に陥るのは頂けない。
ただでさえ脆弱な僕の車にとっては、冠水した道路だけで命取りになるのだ。
ああ、今日も風が強い。
また雨降るんじゃないだろうな。
この正月はどこへも行かず、大人しく家で過ごすとしよう。
出先で雨に降られて道路冠水とか絶対やだもんね。
あれ? ちょっと待てよ?
もともと出かける気なかったわそう言えば。
僕引きこもりだったわ。