風吹きの日は遠出をするものではないと、昔の人は言った。


 ことの他、ドバイであればその言葉は、それなりに意味を持つのかもしれない。


 室内にいても届く風の音と、鈍色にのしかかる空が、否応なくそう思わせた。



 建国50周年を迎えたアラブ首長国連邦は、独立国家として50回目となるこの正月を盛大に祝った。


 至る所でカウントダウンイベントが催され、2022の到来と同時に無数の火の花が、涼やかな濃藍の空を彩った。


 出不精な僕はその祝祭の光を、自宅の窓から無関心に眺めるに留まった。


 窓の外を覗き込むと、通行止めされたシェイクザイドロードが濡れて光っていた。


 大晦日、ドバイは雨が降ったのだ。


 日本人的な感覚だと、大晦日なり元旦なりに雨が降るとあまり良い気はしないものだが、ここ中東では些か事情が違う。


 年に数回しか雨の降らないこの地域において、雨は文字通り【天の恵】であり、乾燥した砂漠に齎される喜ぶべき非日常なのだ。



 ────それにしても、このタイミングで雨とは、取ってつけたようだな……



 窓の外、海から流れてくる黒雲を見ながらそう思った。


 UAEでは数年前まで、頻繁に人工降雨を行っていた。


 その雨はまさに不自然で、バケツをひっくり返したような豪雨になることも少なくなかった。


 基本的に雨を想定していないこの国では、建物も道路も、雨に弱い。


 少し降っただけで道路は冠水、建物は雨漏りし、酷い時には電気系統も異常をきたす。


 それにも拘わらず敢行していた人工降雨はある時、度を超えた。


 想定外の大雨となり、洪水の被害まで出たのだ。


 それを受けドバイ政府は人工降雨を一時停止、程なくして王様が『人工降雨ってやっぱ環境破壊に繋がるっぽいから、もうやめるね』と、公式に発表した。


 実際にそれ以降、ある程度定期的に降っていた雨はピタリと無くなった。


 あれからどれくらい経っただろう。


 もう人工降雨はやめたのだろうと当然のように思っていた中での、雨。


 それも、見計らったかのように大晦日昼間だけ降り、花火が上がる夜にはピタリと止んだ。


 これ、また降らせたよね────。それが、この国に住まう人々の共通認識だった。


 別に、人工降雨が悪だとか、環境破壊だとは思わない。


 きっと誰も、そうは思っていないだろう。


 ただ、ちょっと降っただけで交通障害に陥るのは頂けない。


 ただでさえ脆弱な僕の車にとっては、冠水した道路だけで命取りになるのだ。


 ああ、今日も風が強い。

 また雨降るんじゃないだろうな。


 この正月はどこへも行かず、大人しく家で過ごすとしよう。

 出先で雨に降られて道路冠水とか絶対やだもんね。


 あれ? ちょっと待てよ?


 もともと出かける気なかったわそう言えば。

 僕引きこもりだったわ。

 


 

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