希『また来たんですか』
馬に乗ってやって来た政宗に、私は声を
かけた。
初めてここで会って以来、顔を合わせるのは
3度目。
名のある武将なのに、敵の領地に単騎乗り
込んでくるなんて……と最初は呆れた
けれど、彼にとっては大したことがないの
だろう。
政宗『何だ、ご挨拶だな。あんたに会いに
来たって言うのに』
希『会いに来て欲しいと頼んだ覚えはあり
ません』
政宗『そんなつれないことを言うな』
私がどんなに冷たくあしらっても、政宗の
態度は変わることがない。
相変わらずの皮肉めいた微笑を浮かべ、馬を
下りると、懐(ふところ)から小さな包みを
取り出した。
希『……これは?』
政宗『あんたにやるよ』
目の前に突き出されたそれを受け取り、
そっと紙を開く。
中から出てきたものの輝きに、私は一瞬、
目を奪われた。
希『綺麗……』
政宗『そうだろう?』
それは、まばゆい光を放つ石でできた髪飾り
だった。
(もしかして、これは南蛮渡来の……?)

希『いただけません』
私は繊細な飾りが壊れないよう、丁寧に紙を
包み直すと、政宗に差し出した。
政宗『どうしてだ?』
いかにも心外という顔で、首を傾げる政宗。
希『見ず知らずの方から物をもらう趣味は
ありません』
政宗『見ず知らずってことはないだろう。
お互い名前を知っていて、何度も顔を合わせ
てるんだし』
希『その程度の中でいただけるようなお品
には見えません』
政宗『前にも言っただろう。オレはあんたが
気に入った。だからあんたにやると言ってる
んだ』
『だいたい、オレが持っていても仕方ない』
希『ほかの女性に差し上げればよいのでは?』
政宗『分からない奴だな。あんたに付けて
ほしいと言ってるんだ』
政宗は私の手から飾りを取ると、拒否する間
を与えずに私の髪に付けてしまった。
希『あ……』
政宗『……ほら。よく似合う』
慈(いつく)しむような瞳で見つめられ、私は
鼓動が速くなるのを感じる。
いったん付けられたものを無理矢理外すのも
子どもじみている気がして、
私は仕方なく、そのまま受け取ることにした。

希『あ、ありがとう、ございます……』
政宗『これくらい、大したことじゃない。
それに……』
『礼ならこっちの方がいいんだが』
希『え?』
素早い動きで政宗の手が腰に回り、強引に
抱き寄せられる。
思わず顔を上げた瞬間……
私の唇に、温かなものが触れた。
(ええっ……!?)
驚いて目を見開くと同時に、唇が解放される。
政宗『フッ……隙だらけだな』
希『なっ……何するんですか!』
してやったりという顔で唇を吊り上げる政宗
に、私は食ってかかる。
自分でも、頬を朱に染まっているのが
分かった。
政宗『次は唇にすると言っただろう?
オレは、言ったことは必ず実現する男だ』
希『だからって……こんな……いきなり』
政宗『いきなりでなければいいのか?』
希『そんなこと言ってません!』

悪びれない態度が腹立たしい。
けれど私が怒鳴れば怒鳴るほど、彼は楽しげ
に笑うだけだった。
政宗『それじゃあな。また来る』
希『え……もう帰るんですか?』
政宗『何だ。寂しいのか?』

選択A.まさか
希『まさか』
政宗『フン。そのうちオレにすがって『帰ら
ないでください』と泣くようになる』
希『冗談言わないでください』
政宗『ハハッ。やはりあんたはそうじゃなく
ちゃな』
私は睨み付けると、政宗は声を上げて笑った。

選択B.せいせいする
希『いいえ。せいせいします』
政宗『まったく……つくづく可愛げのない女
だ』
希『可愛くなくて結構です』
政宗『まあ、だからこそ落とし甲斐があると
いうものだがな』
希『……っ』
政宗が野卑な笑みを浮かべて囁き、私は
思わず言葉を詰まられた。

選択C.寂しいです
一瞬、頷いてしまいそうになって、私は
慌てて否定する。
希『そ、そんなことっ……』
政宗『今、頷こうとしただろう?』
ニヤリと笑いながら言われて、私は激しく首
を振った。
希『してません!』

政宗は言葉どおり、さっさと馬を跨る。
政宗『今日はそれを渡しに来ただけだからな』
希『それだけのためにわざわざ来るなんて、
よほどお暇なんですね』
政宗『本当に暇なら、もっとゆっくりするん
だが』
希『え?』
政宗『これでもそれなりに忙しいんだ。
じゃあな』
それ以上声をかける間もなく、政宗は馬の腹
を蹴ると、そのまま去っていった。
希『……本当に忙しいんだ』
(それなのに、わざわざ来るなんて……本当に
変な人)
心の中で呟いて、私は付けたままの髪飾りに
そっと触れた。