夕方の空は、いつもと同じグレー色だった。
アパートの出口から外に出て、角を曲がった所から、
雪の積もった、冬枯れの庭の桜の木が見える。
もう、雪は降っていなかったが、地面は行き交う車の
ライトに反射してキラキラ輝いている。
暗い色の短めのダッフルコートを寒そうに羽織った
澤田が、そこに、いた!
右左に少し体が揺れているのは、寒いからだろうか...
白いセーターに、赤のチェックのスカート、
そして白い厚編みタイツの葵は、胸の痛みを感じた。
―先生?
笑顔で見上げると、不思議に白く浮かんだような澤田の表情が
一瞬に和らいで、葵ちゃん、と咳払いするように呟くと、
右手を差し出したので、葵は戸惑った。
なんなのだろう?握手だろうか?
一瞬躊躇していたのが、澤田にわかったのか、澤田は、葵の左手を
何も言わずに摑むと、そのまま桜の木の下から歩き出した。
消毒薬の匂いがする、冷たい素肌、温もりのない手...はやる鼓動...
頭の中で色んな思いが交錯するのに、幸せだ、と一番強く感じた。
冬枯れの枝から、凍った雪の塊りが、2人の背後にドサリ、
と音を立てて落ちた、そんな夜の始まり...。