劉霞に 谷川俊太郎
言葉で慰めることも
励ますこともできないから
私は君を音楽でくるんでやりたい
どこからか飛んで来た小鳥の君は
大笑いしながら怒りを囀り
大泣きしながら世界に酔って
自分にひそむ美辞麗句を嘲笑い
見も知らぬ私の『無題』に
君の『無題』で返信してくれた
そうさ詩には題名なんてなくていい
生きることがいつもどこでも詩の題名
一度も行ったことのないところ
これからも行くことはないところ
国でもなければ社会でもない
そんな何処かがいつまでも懐かしい
茶碗や箸や布団や下着
言い訳やら嘘やら決まり文句
そんなものにも詩は泡だっている
君のまだ死なない場所と
私のまだ死んでいない場所は
沈黙の音楽に満ちて
同じ一つの宇宙の中にある
