Taking Sides~それぞれの旋律~ 加藤健一事務所  5・27(月)マチネ | 茶トラ

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作 ドナルド・ハーウッド

演出 鵜山仁

 

1946年のドイツ・ベルリンは4つの国に分断占領されて、まだ瓦礫の中、人々は飢えをしのぐ生活をしていた。

そんな中、連合軍によってナチスの協力者、戦犯の追及が行われていた。

アメリカ軍のスティーブ・アーノルド少佐(加藤健一)は、元ベルリンフィルのマエストロであり、皆の尊敬を集める世界的指揮者のヴィルヘルム・フルトヴェングラー(小林勝也)を執拗に追いかける。30人もの元オーケストラの団員たちに聞き取り調査をしても、彼のナチス協力者だったという証拠は出て来ない。逆に彼が何人ものユダヤ人を救ったこと、その崇高なる音楽家への愛に対する証言ばかりが出てくる。

それでもアーノルド少佐はあきらめない。重箱の隅をつつくように、言葉の揚げ足を取るように果ては事実を捏造するような発言までする。彼は何故そこまでフルトヴェングラーにこだわったのか・・・。彼がこだわればこだわるほど、彼の味方はいなくなる。

 

3月に観たパラドックス定数の「Das Orchestor」は、このフルトヴェングラーがナチスの支配を嫌い、いかに音楽を純粋に愛し、オーケストラを、音楽家たちを、音楽を守ろうと闘い、苦悩している物語だった。

あの時、ドイツにとどまり、その力の限り闘った彼は、とても疲れた様子だった。

ユダヤ人の友達や音楽家を救うために時としてナチスの言葉を用いたり、ナチスを利用することはあったが、それは自分のためではなく、ユダヤ人のため音楽のためだった。

しかし、彼のその思いをアメリカ的正義を振りかざすアーノルドには、まったく理解できないものだった。

音楽を愛することを知らないアーノルド少佐は、音楽によって救われることがあるのも理解できないし、違う世界を体現できることもわからない・・・・そして、あの絶対的独裁政権の下で、絶望しか見えないその世界で、生き延びるために人はどうするかもわからない。想像すらできない。第二ヴァイオリン奏者だったヘルム・ローデ(今井朋彦)の自分を守るために、生きるためにナチスの党員になったり、フルトヴェングラーを貶めるような嘘を言ってしまうのも、悲しいけど、責められない気がした。今井さんがすごく上手かった。あの立場で、追い詰められたら・・・きっと彼のように振舞う人がほとんどだと思う。

ひとくくりにドイツ人を考え、理解したように振る舞い、偉大な音楽家に敬意を振るわないアーノルド少佐に「あの時、ユダヤ人の悪口を言わなかったアーリア人が独りでもいたら教えてください!」と、叫んだユダヤ人でアメリカ軍人の若いディヴィッと・ウィルズ少佐(西山聖了)の言葉・・・・アーノルド少佐には理解できないだろうな・・・。

 

カトケンさんのアーノルド少佐は、本当に憎たらしかった。

終戦後すぐに悲惨な収容所を見たせいで、悪夢に悩まされたり、この悲惨な状況を招いたドイツ人を呪ったりはわかるけれども、そこに囚われて個人の本当の姿が見えてないのが怖かったし、ナチスと変わらない強引さがあった気がした。

僕はフランクで、優しい人間なんだよ~アピールも鼻についたなぁ。カトケンさん上手い!

 

小林勝也さんのフルトヴェングラーの音楽を語る時のとても純粋な様子、音楽のためにあの過酷な国にとどまった彼の気持ち・・・素晴らしかったです。有名な音楽家たちを批評するシーンがとても興味深く、とても面白かった。

 

敗戦の日本でも731部隊の人たちは、資料を渡すことで戦犯を逃れたりしましたが、ドイツでも科学者たちはアメリカで原爆などの兵器開発に携わったのです。

本当に悪い人たちは罰せられず、あの時選択の余地も無く、戦争に加わった人たちが多く処刑されました。

ユダヤ人女性のタマーラ(小暮智美)の「どうぞ良い人と悪い人をちゃんと見極めてください」(ちょっとせりふ違うかもですが)の言葉がよみがえります。

 

素晴らしい舞台でした。

ありがとうございました。