彼のくちびるはやわらかい。
リップクリームなんて彼の人生に関係ないであろうが、
そんな物を使わなくても、彼のくちびるは私の全てに私の肌に優しいように出来ている。

そのくちびるに、毎朝気まぐれに触れてみる。
彼は眠っていてもかすかに反応をしてくれる。

あのくちびるを昼間に-私が会社員の時間-思い出して、愛おしく胸の奥がむず痒くなるような、恋しくて恋しくて仕事なんて放りだして、年中休む暇なんてなく働いている恋人のもとへ迷惑だとはわかっていながらも急いで行きたいと、それは何度も思うのだ。

一緒に住んでいてこのありさまなので、離れていた頃を思い出すだけでぞっとする。
ある日の夜遅く、お友達の家から帰る途中、私は一駅歩いて帰ろうと歩き始めたその時に携帯が鳴った。
恋人からでそれは家に帰ったら私がいないので、心配してのものだった。
一駅。
私は走った。早く早く1秒でも早く彼に会いたくて、
会える時間を無駄にしたくなかった。
息を切らして帰って来た私に驚き、どうしたの?と聞かれたけれど、本当の事は言えなかった。