ほおずきの花束~鷺沢萠 | 考え中

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国語の教科書に出てたちょっと好きな話  ブログネタ:国語の教科書に出てたちょっと好きな話  参加中
本文はここから

高校生の時の国語の教科書。

「次はここからかぁ…」
…なんて気のりせずに、軽く予習を兼ねようと
本当に軽い気持ちで読み進めてみた。

気がついたら読破していた。

読み終わった後、涙目になっていた。

涙は流れずとも、心の底がじわりじわりと熱くなってきた。

心が揺さぶられていた。

「ほおずきの花束」

タイトルを思い出した今この瞬間も心をつつかれ、
くすぐったい気さえする。

高校生の女の子、夏代が主人公。

受験勉強か恋か…

夏代は友達に、「受験が終わるまでは遊ばない」と
宣言したにも関わらず、好きな男の子に告白をする。

結果どうなったか…。

しかし。
そのことが焦点ではない。

しかし、そこがまるで全ての焦点のように
魅かれ、導かれ、読み進めてしまうのである。

二人以外に、取り囲む登場人物には
何のひっかかりもなく溶け込めてしまうどころか、
主人公夏代の、高校生であるがゆえの心の変化を
絶妙に体現させてしまうスパイスとなる。

これは見事な爽快感をもって
当時、高校生だった私のふわふわした精神を
どっしりと落ち着かせてみせた。

受験勉強か、恋か…

…なんて、
今30代を迎えた私にとっては勉強に決まってると
一蹴してしまえるほど明らかな問いかけだ。

ただ。

恋も大事なのだ。

そう思えて、今でもそう肯定してしまえるストーリーだ。

高校生。

大変な時期だ。

大人に向かう一歩手前で、
ふわつきそうな精神を必死に落ち着かせ、バランスを保ちながら、
勉強に一心不乱にならなくてはいけない過酷な環境。

言いすぎか…?

言いすぎではないはずだ。

過酷だったはず。

大抵の大人は自分も通ったはずの道を
いつからか、省見ようとしなくなる。

忘れて生きている。

「人生はもっとつらいことがある」

…なんて、高校生だった私もよく両親に言われたものだ。

過去の事を忘れなければ、年々重なる災いや悲しみ、
憎しみ、虚しさに耐えきれなくなるのかもしれない。

でも、本当の大人にはなっていないように思う。

年齢がそうさせるだけのこと。

「もう○○歳にもなったんだから」と周囲から言われ、
社会的立場も備わり、常識と見識を持ち合わせる。

それが、セーブできてしまう理由だけのこと。

ただ、その本を、本の内容を思い返した瞬間、
自分がどうだったか、両親にどうしてほしかったか
先生にどうしてほしかったか…

こんなことまで一気に思い出してしまったほど。

忘れて生活するのは簡単なことだけれど、
当時の繊細な気持ちを忘れずに、
苦しいけれど忘れずに、
心の片隅にこっそり置いておく…

これができれば、ほおずきの花束の
気持ちにきっといつでも戻れるんじゃないか…

たくさんのほおずきを携えて走ることが
きっと今でもできるんじゃないか…

そう思った。