10代の頃は 彼や彼女がほしくて仕方ない。
…で、モテようと必死に着飾る。
何もしなくてもキレイだし、充分かわいいのに。
…当時の私も、そんなこと散々親に言われたけど、
信じられなくて、みんなと競って着飾った。
ただ、私の場合はいろいろ厳しさに勝てずに
自分の納得のいくお洒落などできなかったが。
今頃思う。
勉強がどれだけ大切か。
手を抜いていたことは一度もない。
ただ、中学生の頃の努力不足が祟って
自分が本当に望む高校で勉強ができなかった。
嫌な言い方をすれば、どことなく頭の悪い子の多い環境だった。
…というより、勉強の大切さを全く理解していない怠け者の多い環境だった。
一部だとは思うけれど、その一部がやたらと目立つ人達で
こちらが真面目に取り組めば取組むほど、その姿勢が目につくようで
語彙の足りない表現をぶつけてくる。
「真面目ちゃんはキモイよねー」
今思えば何てバカバカしいことで落ち込んだのかと
笑ってしまうほどだが、当時は家に帰ると少し泣いた。
そんな姿をみた母が私に変わったアドバイスをしてきた。
「そういうことを言ってくる子ほど、心のどこかでは
(私も本当はこんなことしてないで勉強したいのに…。)って
思っているもんだよ。テスト近くでもなったら、それとなく
勉強教えてあげたらいいんじゃない…?」
…そうかなぁと半信半疑の私。
お洒落もそこそこに勉強もしっかりやっている私が
羨ましいはずだと言うのだ。
たいした高校ではなかったがいつも上位に私の名前はあった。
公表されるので、それがよけいにムカついたらしい。
同じような経験があると自信満々に言う母の言い分を
実証してみることにした。
とりあえず2ヶ月先のテストに焦点を絞った。
当たり前だが、いつもは自分専用に整理して書き込みを
していくノートを、若干、教えることを前提に整理してみた。
その試みは結構面白かった。
自分の理解力もいつもより深くなったような気さえした。
人に教えられるほど、理解した。
(一番うるさいアイツにしよ。)
ターゲットまで思いついた。
休み時間になり、男子がいなくなるとすぐ
私に悪態をつく、結構な人気の美人のアイツ。
私は席が一番後ろだった。
彼女は私と同じ縦列の真ん中。
教壇から目につく場所にも関わらず、授業中は寝るだけ。
(プリント集めの時にでも声かけてやろう。)
「ねぇ…寝てるけど、プリントできた…?集めるよ?」
慌てて髪を撫でながらプリントを出そうとする。
「あ…できてないや。」
「先生怖いよ。見せるから今のうちに書いておけば…?」
いつもはそんな奴、無視して先生に提出する私だけれど
今回は実証するために距離を縮める必要があった。
彼女も驚いていた。
「…は?見ていいの?ってゆーか何で急に?
キモイんだけど…」
(寝起きでも悪態は健全だな、コイツ。天才だわ。)
私も心の中で嫌味を言った。
私はとっさに嘘を思いつき、返事した。
「いや、今日、先生あんたのこと何回も睨んでたから
たぶんもうそろそろ怒られるんじゃないかと思って。
いいから早くしなよ。」
とりあえず白紙に近いプリントを半分近くは書かせた。
教室を出て行ってしまった先生を追いかけて何とか提出した。
教室に戻った時、彼女からそれ以上の悪態は
聞こえなかった。
少しは効果あった。
それから徐々に、そんなやりとりを続けた。
古文でも物理でも化学でも英語でも数学でも…
…で、提出しなくてもいいプリントでは
「テストに出るよ」なんて書いて、彼女の分を作ってみた。
さすがに赤点を避けたい彼女から
こんなことを言われた。
「最近、あんたから起こされるからプリントは
書けてんだけど、ノートとってないんだよね。
テストどこでるか知ってる?」
はっきり言わない…それがまた憎い。
(ノート見せてほしいんでしょ?)…と心で返しつつ、
チャンスと見た私は彼女に、
「ノート見る?テストでどこ出るか色つけてあるんだ」
彼女は照れながら、
「マジで?ラッキー。寝ててもいいことあるわ。」
ムカついたが冷静になった。
「テスト近いから貸すのは無理だけど、
何枚かあんたのためにノート作ったから
これはあげられるよ。
あと、わかんないことあったら困るから
他のもノートまとめ一緒にしない?」
言ってやった。まくしたててやった。
彼女は更に照れながら、
「…あー。そうだね。さすがに赤とったら
進級できないもんね…。あ、でも学校じゃアレだから
どっかカフェでも行ってやろうよ。」
アレって…(笑)。
他の悪態仲間に何か言われるのが嫌なんでしょ?
そう思った。でも追及する気もなかった。
「私の家来る?お姉ちゃん、もう家にいないから
部屋空いてるんだ。」
「へー。いいの?じゃあ、明日学校終わったら
メールするわ。一旦帰ってから行く。」
そんな約束をつけた。
家に帰って母にいろいろ説明した。
「やっぱりねぇ。明日来るって?じゃあ、茶菓子でも
買ってくるかな。勉強なら時間は気にしなくていいからね。」
そんな優しさをくれた母。
少し自分の心も明るくなった。
明日が待ち遠しかった。
翌日、彼女は何気ない顔で登校し、何気ない顔で
いつものように仲間とつるんでた。
ただ、悪態はなかった。
それに、「赤点だけは避けるぞ!!進級したいもん!!」と
意味ありげな台詞を少々、遠まわしに連発していた。
いつもは「テストやだー。超ヤバイー。マジどうしよう。
いいよねー。真面目ちゃんは焦らなくてーーー。」だったのに。
私には、彼女の、「勉強も頑張ります宣言」にみえた。
何気なく私も普通に下校し、家に向かった。
家に着くころ彼女からメールがきた。
「4時半に○○駅に来れる?」…と。
家にきたことないのだから仕方ない。
「わかった。迎えに行く。」
「OK。ありがとーー
」…と
私なら絶対女同志では使わないハートの絵文字が
ついていた。
よほど嬉しかったのだろう。
多少、チグハグな私と彼女だが、まぁ、心根は
似てるのかもしれないと思った。
ウザイが、私は5分前行動だ。
予定より10分遅刻して彼女は来た。
15分待ってあげていた。
「じゃ、行くか。私服、相変わらずシンプルだねー、あんたは。」
遅れてごめんもなしにそんな台詞。
「TシャツにGパン。これが私の好きなスタイルなの。
まぁ、あんたみたいなハデ好きには理解できないけどね。
いいんじゃない?似合ってるよ、それ。」
とりあえず褒めてあげた。けんかはしたくない。
5時に家に着き、夕飯と途中に茶菓子を食べてから
彼女を送っていったのは23時だった。
勉強が少し楽しくなったと言っていた。
「ありがとう。いつもごめんね。キモイとか言って」
初めてお礼を言われた。
少し焦った。
「あんたからみたらキモイからいーよ。」
…なんて、肯定するような変な返事。
彼女は赤点を避けたどころか、
いつもより少しいい点数をとれたとメールをくれた。
それから彼女とは何度も勉強するようになった。
進学先は違っていたけど、彼女は看護学校に合格した。
今は立派な看護師だ。
悪態は変わってないが、患者さんに対して、それが
逆に愛嬌があると評判になっていた。
会いに行った私にも相変わらずの台詞を飛ばした。
「相変わらず地味だねー。若いんだからもっと
お洒落しなよー。あ!今度飲みにでも行く?」
今は素敵な友達だ。