高校生の時によくMr.childrenを聴いた。
あまり邦楽を聴かなかったけれど、
桜井さんの声はどことなく心の隙間にそっと馴染んだ。
学校生活があまり好きじゃなかった私の
ストレス発散はピアノだった。
8歳からわずか5年ほどしか習っていないレベルだけど
Mr.childrenの曲を初めて聴いた時は
無性に弾いてみたくなった。
家に小さな中古のピアノがあり、
学校帰りに、セーラー服姿のままの私は
毎日CDショップへ行って楽譜を探した。
500円程度の1~2曲の楽譜を買って
家で夢中で練習した。
すぐ弾けるようになって
また別の曲を買いに行った。
ショップのお兄さんがいい人だった。
「よく見かけるね。ピアノ好きなの?」
「…あ。はい…家にあって、少し習ってて…」
覚えられていたことに焦った。
ちょっと初心な私は赤面しながら説明した。
「楽譜、これちょっと高いけどMr.childrenの曲ほとんど入ってるの。
買ってみるかい?」
胸が躍った。欲しかった。でも16歳の私には少し
高かった。
今の子は3000円くらい持っているのかもしれないけれど
割と厳しい家で育った私にはお小遣いも厳しかった。
「あ。欲しいんですけどお金なくて買えません。」
恥ずかしい話だけど仕方ない。
それを告げるとお兄さんは「ちょっとここで待ってて」
そういいながら微笑んで、何やらギターやサックスが
並べてある売り場の奥へ入っていった。
バンドの練習場になっているようなその場所には
何人か男の人がいた。
少しこわくもあった。
(何かされたらどうしよ。)
足が震えていた。
「おー。ごめんごめん。」
お兄さんが戻ってきた。
手にはさっき私に紹介した楽譜を持っていた。
「うーんと…これ、ちょっと使い古しなんだけど同じもの。さっきのと。」
「あ…ほんとだ。ホコリ…」
「あぁ。ごめん。最近使ってなくて。でも俺全部弾けるんだぜ!!
このツラでもねぇ。タダであげるから弾けないとこあったら
遠慮なく言って。教える。ここ、キーボードもあるし、奥はライブの
練習場だし」
「…え?タダより高いものないって父さんが…。1000円なら
あるので払います…」
その場にいたみんなが私をみて大爆笑だった。
顔から火がでそうなほど赤面した。
お兄さんが優しく言った。
「警察にこの店でこう言われたって先に言っておきな。
それくらい保証するわ。大丈夫。俺、結構、慕われてるし」
「…すみません。ありがとうございます。
弾けるようになったら返しにきます。」
頑固な私。
まだお兄さんは微笑んでいた。
逃げるように店を出て、
でもすごく嬉しくて泣きそうだった。
家に帰ってすぐピアノをたたいた。
何度も何度も練習した。
「抱きしめたい」を完全にマスターした。
いつか高校の音楽室のグランドピアノで
弾かせてもらおう…
そんな小さな夢ができた。