旅から戻ってきた。
日頃常々感じていたことだけれど、旅先でやたら目についた。
どうにも気持ちがおさまらない。
マナーの悪さ…というより、
滑稽の域だ。
雨降りだった。
海沿いの小さな町。
狭い道路に傘が広がる。
二人で傘をさして歩けば
すれ違うこともままならない狭さ。
まぁ、そんな歩道、どこにでもある。
その、狭い歩道で、二人で傘をさしている状況で
向こうから同じように二人や三人が歩道いっぱい
横に並んで傘をさして歩いてくる。
私はそれを見つけると
必ず一列になろうと思う。
友達と二人並んで歩いていても必ず後ろへまわるようにしている。
狭い道なら当たり前だ。
誰が見たって、
譲りあってやっと通るほどの道幅だ。
自動車どうしならよくある光景。
傾斜地や山道で、車がすれ違うことができない場合、
どちらかが停車するか、少しスピードを落として通る。
これが歩道ではなかなか起こらない。
若い子だけではない。
いい歳したオジサンやオバサンがまた滑稽の極み。
向かってくる時に、明らかに目が合う。
にも関わらず、私達が避けるのを狙っているかのような
みじめさを隠せない虚栄心まるだしの視線に変わり、
すれ違う瞬間まで2列3列を通そうとする。
私はそんな輩と対抗しようと思うほど
心の狭い人間ではない。
私の祖母はどんな時でも粋を忘れない。
身なりや態度はしっかりと洗練された素敵な人だ。
狭い歩道では傘を傾けて、すれ違うのが基本。
それが無理なようなら自分から立ち止まり、
「お先にどうぞ」と身振りで示す。
その姿を3歳4歳のころから、自然と見せられてきた私には
当たり前というより、それがごく普通の振る舞いなのだと
思っていた。
それが…。
つまらない意地を張る、オジサンオバサン。
カタカナ表記で充分…(笑)
あまりにそういう人が多いものだから、
1度、私達もオバサンの真似をして
避けずにつっきろうとした。
友達と二人で
「滑稽には滑稽で立ち向かおう!!」と
実験開始!!
2対3。
オバサンが傘を傾けることも当然なく、
まして、少々たるんだ身体を怯ませることなく
まさに「体当たり」でやってくる。
少し距離のある時は目が合っているはずなのだが、
接近してくると目を逸らす。
あれはきっと程度の低いオバサンなりの正当防衛…
「見えてませんでしたー」って言うつもりかい! …(笑)
ドシッ…
と不快な音がしてすれ違い、
オバサンの傘がグルっと半回転した。
ぶつかった衝撃で…
回転した衝撃で、雨粒が
オバサンのカバンにかかる。
自業自得の滑稽さ。
笑をこらえるのがやっと。
にも関わらず、そこで初めて目があったかのように
「何なのよ!!最近の若い子は…」と小汚い布切れのような
ハンカチを取りだし、中途半端なセンスのカバンの雨を拭いだす。
あくまで「実験」なので、友達が打ち合わせ通りにオバサンに突進した。
すれ違って私達と遠のいて、聴こえないと思ってそんな台詞を
堂々と吐いたオバサンを追いかけた。
で、
「え?こうなる前に私達がいたの見えてましたよね?
ぶつかることくらい予想つきませんでした?」
友達も実験を楽しんでいるのか少しアドリブの匂いがした。
「私らみんなで喋ってたから気がつかなかったわよね?」
と、仲間に助けを求めるオバサン。
こういう時は弱っちいオバサン。
仲間のオバサンは共犯になりたくない様子で
知らない顔をする…(笑)。言葉を発するどころか頷きもせず
もう一人のオバサンが広げた地図に視線を逃げ込ませる。
友達は
「いやぁ。あなた一人が避けたらこちらも
だいぶ助かったんですけど?
あぁ。この子、少し目が悪くてね。
私が隣で支えないとダメなんですよぉ!!」
実験のため芝居をした。
「お友達に助けを求めてもダメでしょう。
だって歩道はあなたのものではないでしょう?
ましてやこのお盆で、当たり見回せば観光客でにぎわっているの
わかりません?
旅慣れしてるお歳頃でしょうに。
そんな素敵な方に見えたからこちらは安心して、
避けられるギリギリで私は傘も傾けたんですがねぇ…」
友は笑顔で一気にたたみかける。
一度、顔を見合わせて合図を受け、今度は私が言う。
「いやぁ。これだから最近のオバサンは。
だから最近の子供たちが避け方知らずなんでしょうね!
親の顔がみたいってこのことだわね。
恥ずかしい限りです。
あいにく私にはあなたの顔がはっきりはみえませんがね」
更に、たたみかける。
「我が物顔で、譲り合いできないようなオバサンには
これから歳を重ねた時にバスだって電車だって席の譲り合いは
受けられませんよ!因果応報ってやつですね。」
最後に友達が言った。
「お友達の皆様、すみません。目の見えない友達にも
いい思いさせたくてちょっと怒ってしまって…。
お互い気をつけましょうね。どんな人とすれ違うかは
外見じゃ計れませんからね。それでは失礼します」
…と言って、二人で深く頭を下げて退散した。
オバサンの、まぁ、ショボイ顔と言ったら…。
ちょっとやりすぎたことは私達も反省した。
ただ、本当にそういう意味で粋な大人がいない。
それは哀しいものだ。
私はそうはなりたくない…
と、言うよりなれないだろう。
身体にしみ込んだマナーというのはそうそう崩れるものではない。
その土地へ踏み出す時はあくまでも来客。
百歩譲っても、自分の住んでいる土地ではない限り、
そんな振る舞いをする輩は許せたものではない。
少なくとも、そんな些細なことができない大人に、
まして滑稽なオバサン成り下がることは私には不可能だ。
どんな歳になっても、人としての振る舞いの恥を知らない人は
どこか情けない。若者を批判する間にまず、自らの振る舞いの
徹底をしたほうが先決だ。
姿勢を示すことで変わることもある。
何かにつけ、日本人だと日本だと口ぐちに
言ってのける輩が多いから、
大人のかっこよさってなんだと
もう少し先導できる大人が多いと思っていたが
どうやらそうでもないらしい…
哀しい光景はこれからどのくらい
増えるのか…