はしばらく夢の彼女の言ったことについて考えてみた。彼女はには欠けているものがあると言った。確かには欠陥だらけの人間なのは間違いないが、かといって改めて言われるようなこととは、はたしてなんだろう。情熱?愛?それとも容姿についてなのか。一通り考えを巡らしたが、結局今明確な答えを出すのは無理だという結果に辿りついて、は彼女の言ったことについて考えるのをやめた。
 それよりも今のには重大な問題が起こっているからだ。のとなりにはしゃべる猫のことをじっと見ている。
「ねぇ。わたくしのおショクジはまだかしら。さっきテにトったではないですか。それともイマはチョウドラマダーンのキセツでしたっけ?うふふ。」
「君は本当にこぴんなの?」
こぴんの言う事を打ち消すように聞きかえした。
「あなたまだネぼけていらっしゃるの?もう4ネンもクらしているじゃないですのよ。そんなことよりハヤくおショクジにイタしませんこと?」
「じゃあなんで急に喋れるようになったのさ?」
「それ以前になんで猫なのに喋れるの?」
「それとも僕の耳がおかしいの?」

 こぴんは狐にでもつままれたような顔をしていたが、やがてまた喋り始めた。
「ナニをオッシャっているのか、さっぱりワかりませんませんわ。ダイイチ、イマまでずっとおハナシしていたじゃありませんか。それよりもわたくしおナカがスいてしまってシカタがないのですわ。」
 会話はまるで成り立っていたかった(もともと猫と人間の会話なんて成り立つわけがない)がどうやらの言葉も通じている事は分かったので、とりあえず他のことを考えるのを諦め、手に持ちっぱなしになっていたキャットフードを皿に出してやった。
 「やっとおショクジにデキますわ。いただきますわね。」
こぴんはいつも通りカリカリ音をたてていつも通りの表情でキャットフードを食べた。そして食べ終わると(とはいってもいつものように半分くらいは残っているが)改めての顔を見てこう言った。
 
「それであなた、さっきからナニをおふざけになっていらっしゃるの?」

 「ねぇ。ちょっと。」
 それがの記憶しているこぴんの最初の“ことば”だ。その声はどことなく彼女の声に似ていたが、口調やイントネーションは全く違うものだった。
 「わたくしおナカがスきましたわ。ナニかイタダけないのかしら。まぁナニかといってもきっとキャットフードでしょうけど。うふふ。」
 当然眠りから覚めたばかりのに猫がしゃべるなんて思わないので、いつものように外で誰かがはしゃいでいるのかと思い、その時は気にも留めなかった。
 こぴんはベッドを軽い身のこなしで飛び降り、キャットフードがあるシンクの棚の前に行き、その前でちょこんと座った。時計の針は5時を指していた。は重たいからだをやっとのことで持ち上げて、キッチンへ行き餌をとろうとした。
 「やっぱりキこえていたんじゃないですのよ。それともシカトというですか。いけずなんですから。」
 は言葉を失ってしまい、開けかけのキャットフードを持ったままその場に立ち尽くした。そして呆然とこぴんの顔を見つめた。その声は外からではなく部屋の中から、それも僕の足元から聞こえてくるのだから。
 「ナンですのそのカオは。わたくしのカオにごハンツブでもツいているのですか?でもさっきもイいましたようにわたくしはキャットフードしかタベませんのよ。ごゾンジでしょ?うふ。」
 「しゃべっているのはこぴんなの??」
 間抜けな質問だったが、それが僕のなんとか絞り出した最善の言葉だった。



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 その夢はあまりに唐突で、そして圧倒的なリアリティを持っていた。はそれ以前少なくとも1カ月は夢なんて見ていなかった。あるいは見ていても全くおぼえていなかった。だからは夢から覚めても“それ”が夢だと勘違いしてしまうくらいだった。
 
 彼女(といってもずいぶん前に別れていたのだが)の部屋で彼女と向き合って立っていた。彼女は涙を流していたが、それと同時にとても素敵な笑顔で微笑んでいた。
 彼女に向かって、とても小さい声で話しかけてきた。
 「あなたは優しすぎるの。だからあなたはあなたの知らないあいだにたくさんの人を悲しませているの。」
 は反論したが、彼女には聞こえていないのか、ごく自然に話を続けた。
 「あなたは大切な部分が欠落しているわ。それはこれからのあなたの致命的な短所になってしまうかもしれない。そしてあなたはまたたくさんの人を悲しませ続けることになってしまうの。」
 そう言い終わると彼女はとてもやさしく、そして慎重にのことを抱きしめた。
 彼女はさっきよりももっと小さい声で続けた。
 「でもわたしは悲しくはなかったわ。あなたと出会えとても幸せだった。ありがとう。」
 それを言ってしまうと彼女はそっと私から離れて何も言わずに部屋を出て行ってしまった。は追いかけて扉を開けたが、そこには彼女の姿はなかった。それどころかそこにはが見たこともない景色が広がっていた。


 夢は始まった時と同じように唐突にそこで終わった。はしばらく呆然としていたが、ある違和感に気が付いた。
 はすぐにその違和感が何なのか分かった。こぴんがベッドの上の僕の横に座っていたのだ。今までベッドに上がったことすらなかったのでは少々おどろいたが、それ以上にうれしかったのでそのままじっと体を動かさないようにした。
 
 
 その時がはじめてだった。
 こぴんがしゃべるようになったのは。


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 これは僕の猫こぴん」の不思議な冒険の話。
 きっと僕はこぴんがいなければこんな素敵な経験はできなかったし、今の僕は存在しなかっただろう。こぴんはにとって親友で、恋人でそして、大切なだった。

だから僕はこぴんのためにこの物語を書き、そして誰よりも「コピンヌ」、君に捧げたいと思う。