美術品のような美しい蓋碗がそっと卓上に置かれ「もうしばらくお待ちください」と一言。応接室で商談相手を待っていた時間。
そんな20年ほど前のワンシーンがよみがえりました。
蓋を開けた瞬間、これまで嗅いだことのない香りに夢中になると同時に、どうやって飲んだらいいのか戸惑いました。
日本茶なら蓋を開けると茶湯だけが入っているけれど、中国緑茶は茶葉も入っていて。茶葉が次第にふっくらしてきてその美しい形と色に魅せられていました。
それが龍井茶の最初の記憶。
受け皿ごと持ち上げて手のひらにのせ、蓋を少しずらして茶葉をよけながら隙間から茶湯を飲む。美しい仕草とともに飲み方を教えてくれた商談相手は、その後大切な取引先になりました。
龍井茶を蓋碗ですすり飲みをするとき、今でもその時のことを思い出します。
この日のお茶は、龍塢鎮の明前龍井。
待ちこがれていた新茶です。
色、香り、味、形にうっとり。
お湯をつぎ足しながらたっぷりと。
清々しさと香ばしさが入り混じって、喉元からふわっと甘みがよみがえってくる感じを、もう一度、もう一度、と。
気づくと電気ポットのお湯を飲み尽くしそうなくらい飲んでいます。
あいにく気の利いたお茶うけがなく、それっぽく懐紙にのせてみたものの、これはネコ型のグミ。
いろんな形、いろんな味がある中から、なんとなくマスカット味だけを選びました。
20年以上経っても鮮明に覚えている、あの時の龍井茶と景徳鎮の蓋碗。その時分からなくても、ずっと先に分かることもあります。
キラキラした第一印象を残してくれた、大切な記憶です。
ぬるま湯を飲む猫さんと一緒に、おいしいお茶を。
自分にとっては、どんなお茶会よりも贅沢な時間です。
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