IWCキャリバー5000 | ウォッチ ホリック watch holic  

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好きな言葉は「ひげゼンマイ」(笑)。横浜と渋谷にある時計ショップ「COMMON TIME」と               横浜元町が本店のジュエリーショップ「CHARMY」の社長のブログです。

みなさん、こんにちは。


さてさて、先日

史上最高のパイロットウォッチ

ということで、

この↓IWCのビッグパイロットを紹介しました。
Big Pilot Watch SIHHモデル


が・・・・、あれだけの理由で、最高のパイロット

ウォッチに挙げてしまって良いのだろうか????

なんて、疑問に思った方もいらっしゃるのでは、

ないでしょうか?


その通りだと思います。


この、時計の最高である所以は、

キャリバー5000というムーブメントに有ります。

ハートカムを使ったぺラトン式の自動巻きは、

巻き上げ効率に優れているという話は、

何度かこのブログでも書いていると思います。


しかし、何よりも古き良き時代の手間のかかる

ムーブメントであるとことを、私自身は

評価してあげたいと思っています。

(あくまで、私の個人的な意見です。)


さて、みなさんは、時計の機械の良し悪しを

判断するときに、振動数をひとつの基準に

することが多くないでしょうか?

振動数(ビート数)が多ければ多いほど、機械として

安定し、衝撃の影響を受けにくくなります。

ま、簡単に言えば、精度が良くなるということですね。


ご存知の通り、今現在最高の振動数を誇るのは、

ゼニス社のエルプリメロが実現している、

10振動=3万6000振動というものです。

(1秒間に10回秒針がカチカチ動きます。つまり

 1時間に3万6000回カチカチ振動しているわけです。)


何だか、マニアックな話になりそうですね。

今回、こんな話がずっと続きますので、

ご興味のない方は、読まないほうが、身のためだと

思います。(笑)


さて、話は元へ戻りますが、では一般的な振動数は、

どれくらいが、普通なんでしょうか?

ロレックスやIWC、ブライトリング、オメガ、ジラール・ペルゴ

などの伝統ブランドの多くが、8振動(28800振動)を

採用しています。

そして、この8振動以上のものを「ハイビート」と呼んで

特別に分けているのです。


しかし、このキャリバー5000は、IWCお得意の8振動ではなく、

実は、6振動=21600振動を採用しているのですよ。

驚きですね。(マイナーチェンジ前は、5振動=18000振動)


では、何ゆえにロービートを採用しているのでしょうか?


実は、ハイビートの歴史は、意外に長くはありません。

なぜなら、振動数の多さというのは、

安定した精度と引き換えに、時計のパーツの磨耗が早く、

パーツの耐久性の問題を引き起こすからに他なりません。


そして36000振動というと、誰もがゼニスを思い浮かべますが、

本当は、ジラール・ペルゴが先に販売しているのを、

ご存知でしょうか?

そして、ジラール・ペルゴは、おそらく今言ったパーツの

耐久性の問題で、現在28800振動を採用しているのです。


うーーーん、そう考えるとハイビートの耐久性ってどうなの?

なんて疑問も沸いてきますね。

ハイビートの開発の裏には、同時に粘り気の少ない、

ハイビート用のオイルの開発が不可欠なのです。

そして、各社特別なオイルの開発に成功したことで、

耐久性を上げているのが、現状です。



さて、さて逆に、ロービートのムーブメントで精度を得るための

工夫には、いったいどんなものがあるのでしょうか?


一番の特徴は、大型のテンプ(※1)を採用し、

慣性モーメント(※2)が高まる工夫がされています。

(嫌ですねー、物理学!!!)

また、ムーブメントの精度の微調整をするための

チラネジ(※3)や、緩急針(※4)なども、精度を高めるだけでなく、

ムーブメントの複雑感や、見た目の美しさなどにも

つながっているように思います。


こういったムーブメントは、調整も難しく、

職人の腕によって、時計の精度が左右されてしまう

というデメリットを持ちますが、

逆に腕の良い職人が精度をつめて行くと、

とてつもない精度を出したりもするのです。


世の中には、手間のかかるムーブメントが好きで好きで

たまらない!というマニアックな人々が意外に多いのも

こう言った理由なのです。(一般的ではないですが・・・・)




(※1)テンプ=シースルーバックの時計のムーブメントを見ると、

         車輪のようなものが、常に反転運動を繰り返しているのが、

         分かります。この車輪のようなものをテンプと呼びます。


(※2)慣性モーメント=物体の動きにくさの値です。

              テンプの直径が、大きければ大きいほど、

              慣性モーメントが高くなります。

              ちなみに動きにくい物体は、止まりにくい物体です。


(※3)チラねじ=テンプのバランスをとるために輪っかの外周に

          ついているネジです。IWCのキャリバー5000には、

          16個のチラねじが付いています。


(※4)緩急針=時計の遅れ進みの微調整をヒゲぜんまいを調整して

         行う装置です。