琉球硝子の流れを汲む、厚い黒のロックグラスに、残っていた<角瓶>の中身を注いだ。ストレートだ。芳香を愉しみながら、グラスの中身を静かに啜る。

出先等で気持ちが昂ったような感で、何か深夜に眠れない場合が在る。地元の拙宅に在って、そういう例は少ない。或いは、気持ちに何処となく浪が立ってしまっているような状態かもしれない。憤りというのとも、歓喜というのとも、何れでもないような、「浪が立ってしまっている」とでも形容する他に無い様子かもしれない。

少しだけ手を伸ばせば届く、触れられる、掴めるという程度に思っていたモノが在ったとする。そう思い込んでいたが、実は手を伸ばしても届くというのでもなく、触れられず、掴めない。或いは掴んだと思っていて、指の間から零れてしまう。そのうちにモノは何処かに遠ざかって、簡単に見つけられなくなってしまう。

強いて説けば、こういうような程度になるような状態という事柄が時には在ると思う。自身の場合、これまでの歩みの中、巧く説明出来ず、敢えて言えば上述のような感じということを何度か繰り返して現在に至っているような気がする。或いは、またそういう様子になろうとしている現状なのかもしれない。未だ、結論めいたことを如何こう言えるのでもない段と観るべきなのだろうが。

何となく寝付けない深夜に、何やら変な考え事をしているという、妙な様子なのかもしれない。とりあえず、黒のロックグラスの中身を干して、ゆっくり眠りたいと思う。